第6話 共同生活のそれぞれの役割


「昨日使った寝室がこっちで、反対側がお風呂。湯船があるから、薬草湯にしてゆっくりできるよ。それであっちにあるのがキッチンで……」


 店に戻った俺は、彼女たちも使うことになった住宅部の設備などを一通り紹介していたのだが、


「共同生活というからには、私たちに何かお手伝いできることはありますか?」


 その最中、スノウがそんなことを言ってきた。


「手伝いって、どうして?」


「帰り際、スノウと話してたんだけどね、住むところに、解呪とか。面倒を見てもらってばかりだから。少しはお返ししたいの」


 確かに帰り際、スノウとリリスが何やら話し合ってはいたけれども。


「そんなこと気にしなくてもいいのに」


「やりたいんです。……何もしてないのに、何かしてもらい続けるのは辛いですから」


「ええ。私も、役に立てないままっていうのは、嫌だからね」


 スノウとリリスはそう言ってくる。

  

 二人とも、気持ちは硬いようだ。であれば、


「まあ、それなら……毒と薬関係を、少しずつ覚えてもらって。店の手伝いとかするのはどうだい? そこの薬の原料が入った棚から、もってきてもらうだけでも助かるし」


 そう言うと、スノウとリリスはともに頷いた。

 

「分かりました。ものを覚えるのは、得意です」


「私はあんまり得意じゃないけど。でも、やれそうだから、頑張るわ」


「そうだね。じゃあ明日、モカさんっていうこの店のオーナーが来たら話を通そう。それ以外にも、やりたいことがあったら言ってくれ」


「ありがとうございます……!」


「分かったわ!」


 そんな会話をしていると、

 

 ――きゅー

 

 と、腹の虫が鳴った。スノウとリリスだ。

 

「あう……すみません」


「は、恥ずかしいわね」


「気にしない気にしない。体が正常に空腹を訴えてくるようになったってことだからね。ちゃんと薬も効いてるし、契約によって魔力の流れも良くなっているって証拠だよ」


 そろそろ夕食の時間でもあるし。体内時計が健康なのは良いことだ。とはいえ、だ。


「今、家にあるのはこれしかないんだよね」


 そう言って魔法冷蔵庫から取り出したのは、一本の大びんだ。


 中には茶色い液体が入っている。


 液体には粘性があり、それを見たリリスが首を傾げた。


「コレって……なに? お酒?」


「いいや、これはね。『カムイドリンク』と言うものでね。栄養抜群で、これ一本飲むだけで一食分の栄養が取れるんだよ」


 そう言って木のジョッキに、ドロッとした液体をなみなみと注いでいる。


「味が想像できないのですが……何で出来ているんですか?」


「薬草や栄養のある肉や魔獣の血を、煎じて、煮出して、混ぜ込んだものだね。一舐めしてみるかい? ……モカさん含め、ありとあらゆる人に不評だけども」


 その言葉に、リリスはスノウと顔を見合わせ、


「で、では、一舐め……」


「私も」


 指一本に一滴だけ乗せてもらったものを、舐めた。


「……」


「……」


 二人の時が止まったような感覚があった。


 そのあと、真顔になってしまい、


「……申しひわけありません。飲み込めまへん」


「辛みと甘みと酸味と苦みと渋味が一斉に来て、凄いんだけど」


「ああ、ほら。こっちに吐き出しな。水で流しこんじゃっても良いよ」


 水とタオルを渡すと、二人して一気に飲み込んだ後、


「うあ……後味が延々続いてる……。匂いはないのに、なんでこんなえぐみがあるの……」


「あの……カムイ様は、本当にこれを飲んでるのですか?」


「飲んでるね。というか、これが食事だから、基本的に三食これで済ませてるね。外で食べるときは、別だけど」


「美味しいと、思ってる、わけじゃないのね……」


「そりゃあまあ。俺の味覚は鋭くはないが、人並みではあるし」


 ただ、戦場でもっとひどいものを食べたこともあったし。その時から作っていた液体食糧に近しいものなので。慣れてしまっているから気にならないだけである。

 食事を美味しく食べる、というのは、戦地を離れてから知ったものだし。


「これ以外に料理は、しないんです?」


「しないね。調味料は、ここの持ち主であるモカさんが置いてってくれたけど」


 とはいえ、ここまでの反応で、不評なのはよくわかった。


 恐らくこれを飲ませようとするとジルニアさんに張り倒されるか、後で知ったモカさんにはたかれるか。恐らく両方くるだろうし。


「君たちに同じものを食べさせるのは、客観的に良くないと思うから。近くの飲食店でも行こうか」


 〇


 カムイの話を聞いて、リリスはふと思ったことスノウに聞いた。

 

「……スノウ。アナタ、料理作れる?」


「あ……はい。私、元居た場所だと、一人ぼっちで食べることが多かったので。竜の姿だと燃費も悪かったですし」


「アタシも多少は出来るから。一応、毒を出さない生活をするために、こっちの姿をとることが多かったから……」


 であれば、決まりだ。


「カムイ。私たちが、食事は作るわ」


「良いのかい?」


「うん。この家でやれる事の一つとして、ベストなものだと思うから」


「私もそう思います。……カムイ様。私たちが作らないと、このままちゃんとした食事をとらない気がしますし」


「ああ。やっぱりスノウもそう思ったのね」

 

 こんな食生活をする人を放っておけないという気持ちの方が強くなった。

 

「スノウと一緒に作るから。材料を買えるところに連れてってくれないかしら」


「うん。じゃあ、案内するよ」


 そうして、食材売り場で適当に買った後、リリスとスノウは、キッチンに入り、普通に肉と野菜とパンを焼いたものを食卓に並べた。

 

 夜も遅くなったため、簡単なものばかりだったが、


「おお、美味しいよ! ありがとう、二人とも!」


 カムイは、満面の笑みで、美味しそうに食べてくれて、喜んでくれたようだった。

 食卓を囲むリリスとスノウも、ほっとしたような笑みになり、


「初日から、共同生活の意味が出てきて、良かったわね」


「そうですね。美味しいと言っていただけるのは、嬉しいですし。カムイ様のちゃんとした食生活の一助になるのは、大事な事ですから」


 そうして共同生活初の夜は過ぎていった。

 


 アイヴィー帝国が他国との国境線とする山脈。

 

 夜という現在、多数の魔獣――とくに、魔狼がうろついている、その麓で、一人の男が歩いていた。

 

 本来であれば魔狼は、一人旅の人間など簡単に食い殺す。だがこの晩、魔狼たちは、決してその男を襲おうとしなかった。

 

 そればかりか怯え、男の視線に入るまいと、逃げまどっていた。

 

 その男はぽつりとつぶやく。

 

「あの子の毒と、魔力の香りがする」


 その男の影は、大きな竜のもので、

 

「あっちか……! 待っていろ……!」


 視線の先は山の向こう。人々が集まる街の方を見ていたのだ。

――――――――

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