無価値と呼ばれた二竜を拾った《薬師》、邪竜と聖竜の主となる~最強暗殺者の《毒使い》、表舞台で《龍の薬師》として信頼されてます。
あまうい白一
第1話 元暗殺者の薬師
「《毒使い》の暗殺者、カムイ・サージェリーを処刑せよ!」
俺が国に戻ったら、何のかんの理由をつけて、言われるだろう言葉だ。
魔王と各国連合軍の戦争が、連合軍の勝利で終わって半年。
勇者が魔王を倒した、と世間一般ではそういう事になっている。
……本当は、対魔王暗殺部隊に所属していた俺たちが倒したのだとしても、だ。
それより国が支援し民が応援した勇者がやったことにした方が、世間体的にも、国の対外的な発言力的にも良いからだ。
民に慕われる勇者とは違い、暗殺部隊は、その辺りにいた孤児たちの集まりだ。
拾い子に、非合法の魔法薬による身体強化と改造を行い。人、獣、亜人、各種生物の体の作り、魔力の流れ方、経絡の位置を頭に叩き込ませ。これまた非人道的な武器・魔法戦闘訓練を繰り返して、無事に年齢を重ねられたモノだけが、部隊員として残った。
宰相直属の組織によって、部隊生産は行われたが、当然、表ざたになれば批判の的になるだろう。何しろモラルとか存在しない製造過程だ。
魔王討伐という功績はデカいとは思うし、批判を受け止めて功績を誇って、ドンと構えるタイプであれば別に逃げる必要はなかっただろうが……申し訳ないが、そうは見えなかった。
むしろ保身のために消してくるタイプに見えた。
『お偉いさんの保身のために殺されるくらいなら逃げよう』
部隊の生き残り(数人)でその考えが一致した結果、今では散り散りだ。まあ、向こうにとっても、自分たちは厄介の種だし、そちらの方が有難いだろう。
……狩猟対象がいなくなった猟犬は用済みで、殺されて食われるだけというしな。
俺としては、そもそも捨てられた時点で病気だったが、猛毒と劇薬を注入されて病気が治り、健康体になった経緯があるので、少しだけ感謝もしている。だが、生き延びたが故にまだ命は惜しい。
なにせ、この世界には、俺が未だ味わったことがない毒や新種の薬草がたくさん存在する。未開拓の地域からは、年がら年中新種が見つかっているという。
毒使いになったからか、あるいは、毒と薬によって命を救われたからか、気付いた時には俺は、毒と薬の愛好家になっていた。戦時中はかなりの我慢をしてきたが、
……世界中の毒と薬を味わいつくすまで、絶対に死ねない……!
そう思ったからこそ、討伐直後に、魔王の間にたどり着いた勇者パーティーに協力を頼み、暗殺部隊は魔王との戦いで死んだことにして、逃げることにしたのだ。
暗殺部隊にいたといえど、同じ前線で戦うのだからと仲良くしておいたことが功を奏した。
『君たちが大手を振って帰れるような国に変えていけるように頑張るよ!』
などと言ってくれたくらいだ。流石は勇者。人格者だ。
さらに言えば、勇者パーティーにいた僧侶、そして召喚魔法使いの伝手で、俺は今――
「先生。ウチのケロベロスちゃんのお薬ください」
「はーい、ただいまお作りしますね」
紹介してもらった隣国の召喚士の街で、人獣問わない薬師として暮らしていた。
〇
店の診察台には、一匹のケルベロスがのっている。体躯は一メートルほどの、まだ子供のケルベロスだ。
「ウチのケロちゃん。カムイ先生のお陰で犬風邪が収まりました! ありがとうございます!」
来店した少女に召喚されたばかりの子で、厄介な風邪を貰ったらしい。先週見たときはぐったりしていたが、今は大分元気そうだ。触診する俺の手をべろべろ舐めてきているし。
「前回診たあとから、噛み癖や癇癪とかは起こってませんか?」
「はい! 風邪で苦しんでいて暴れちゃう時は、先生に教わった落ち着くツボが効いてたみたいです」
「それは良かった! ……っと、触診終わり。あとは処方を出しますので。それを飲み切れば治るはずですよ」
「ありがとうございます! また、診せに来ますね!」
薬の入った袋と共に手を振って去っていく少女の後ろ姿を見ながら、俺は笑みがこぼれる。
「ふふふ、毒が効いてくれているようだ。悪い部分を殺しきって、ケルベロスの内臓も元気に健康になるぞお」
などと言っていると、
――ぽすん
と頭に紙を丸めたものを置かれた。見ればそこには、一人の白衣を着た女性がいた。
「こらこら、カムイくん。悪い笑顔をしながら前半言ってるの聞いたら勘違いする人が出ちゃうからやめましょうね」
「ああ、すみませんモカさん。俺の毒や、バーサク状態の敵を毒針で封じる技術が表舞台で役に立っていると思うと、嬉しくて」
この薬屋のオーナーである彼女は、勇者パーティーから紹介を受けて俺を引き取ってくれた人だ。
薬屋の業務を教えてくれて、今は俺一人でも回せるようになったのだが、時折こうして手伝いをしてくれている。
「毒も上手く調合すれば薬になる。戦争では血なまぐさい事ばかりに使ってましたから。これで毒の名誉も回復するというもの」
「肉体に何らかの作用を与える時点で、薬も毒の一種だけどもねえ。名誉が広まるのは薬の良さだと思うよ。君の調剤の腕前は、近所でも評判だし。子供たちに苦くない薬を出したりさ」
確かに、ここ最近は近所の家の親御さんから、子供の風邪薬を注文されることが多い。
「シロップ型の薬のことですかね。あれは、薬草と甘い毒の配分が難しくて苦労しましたが。でも、喜んでくれるなら、作った甲斐がありますよ」
そう言うと、モカは、珍しいものを見る目をこちらに向け、
「そうやって嬉しそうに言うのを聞いてると、歴戦の毒使いの戦士だったなんて思えないわね。私の知ってる毒使いは、生物をどうやって苦しめるか、相手の能力を下げられるかを考えたりするのが好きっていう人が多かったんだけど」
モカは、この町の薬師ギルドの副会長も務めているので、毒を専門で取り扱う人も知っている。だから、そういう感想が出るのだろう。実際、戦時中に肩を並べた、毒を使うレンジャーも、そんな感じの考えをしていたし。
そういう思いは戦闘中であれば頷けるし、分からないでもないが、
「人も獣も、病気で苦しんでいるより、元気に走り回れるようになった方が嬉しいじゃないですか。どうせ毒を使うなら、俺としてはそっちの方がやり甲斐がありますよ」
殺す毒と治す毒。両方良い点悪い点があるが、治す方が俺は好きだ。
子供のころ病気で、見た目からしてボロボロで、息を吸う事すらまともに出来なかった自分。そして毒薬を飲んで回復した事を思い返しながら言うと、彼女は静かに笑みを浮かべ
「君がそういう善性の持ち主だからこそ、紹介を引き受けてよかったと思うわね。僧侶ちゃんと召喚士ちゃんから、戦争で魔王の側近を何人も倒して活躍した毒使い、とカムイくんの事を聞いていたから、どんな人かと思ってたけど」
勇者パーティーの紹介で、俺が魔王を倒したというわけにはいかないので、そういう説明になったらしい。確かに客観的に見ると大分怪しいが、受け入れてくれてこちらとしても有難い話だ。
「……少し、毒と薬に対して熱狂的過ぎるけども。この前も新種の毒草が見つかったと聞いて植物ギルドに飛んで行って、植生のある現地で毒草ペロペロしてるって聞いたときはどうしようってなったけど」
「いやあ、この国は、未開拓な地域と近くて、新種の情報が早く入ってきてとても良いですよ! 薬師という立場のお陰で、毒についての情報も入るし、知識も増えるし、試したい毒も薬も増えていきます! 毒最高!」
「まったく。……っと、営業時間も終わりだし、私は帰るわね。戸締まりは宜しくね」
「了解です。俺はもう少しだけ調合を試してから、部屋に戻ります」
この店に俺は住み込みという形で働いているのだが、店を閉めた後でも調合の実験をする許可は貰っている。それで日夜研究出来ているので、有難い場所だと思う。
「ほどほどにね。それじゃあ、また明日」
そう言って、モカは店を出て行った。
「さて、今日仕入れた毒草をさっそく試すぞー」
と、腕まくりしていたら、だ。
「パパ! オレはサラマンダーが良かったのに! こんな無価値な出来損ないの害獣、要らないよ!!」
外から、そんな声が聞こえてきた。
背後の窓、店の裏手の方からだ。そこには町の裏通りに通じる路地があり、道幅は狭く、窓を開けているとよく声が聞こえる。
今回もその口で、なんだなんだ、と目を向ける。
するとそこには、金属のかごを二つ持った、恰幅のいい少年と、その父であろう裕福そうな男性がいた。
不機嫌そうな少年の視線の先には、抱えたかごの中には、細長い白い生物と、四つ足の黒い生物が入っている。
少年の父親はそれを見て、吐息しながら少年に声をかける。
「昨日、召喚士に高い金を払って召喚してもらったばかりだろうに、気に食わんか? あの術師が言うには、『他に類を見ないほどの最上の秘術』を持って召喚した『極上の竜』、とのことだが」
「だって、二匹とも見た目からして出来損ないだよ!?」
「こっちの白いのは手足がないから、竜じゃなくて蛇みたいで格好悪いし、こっちの黒い竜は、目も開けない上に、全身から毒みたいな液体を出すから、ちょっと触っただけで腫れて、凄い痛いんだ!」
かごを揺らしながら少年は言う。中の二体が揺らされてぶつかり合ってもお構いなしだ。
「餌も食わないし、言うことも聞かないし、不格好だし。ペットとしても、使役獣としても使い物にならない、害獣だよ!」
「ふむ……では、もう一度召喚してもらいに行くか?」
「うん。こいつらは所有権登録もしてないし。――ほら、もう、どっか行っちゃえ!」
少年はかごを地面の方に向けて、触らないように注意しながら、二匹を中から降りおとした。
――ビタっ
と、地面に落ちた二体は、そのまま動かない。
「手足がないから動けないのと、目を開けなくて見えないから動けないのか。やっぱり無価値で、ダメだこいつら!」
「まあ、しばらくすれば、野山に去るだろう。今日はもう遅い。明日、もう一度召喚ギルドに行くぞ」
「うん!」
そう言って、裕福そうな親子は去っていった。
……金にあかして召喚した挙句、見た目が気に入らないからってポイ捨てかあ。
人通りの少ない道だからか、やりたい放題だ。
戦争が終わって平和になって、召喚獣をペット代わりにする人が増えてきて、捨て召喚獣問題というのも出てきている。それを間近で見ることになるとは。
「俺も病気で酷い見た目になって親から捨てられたけど、改めて見ると酷いことだな」
二体の方に目を落とすが、先ほどから少しも動かない。
明るくない道だ。このままだと、気づかずに人に踏まれてしまう。
同じことが起きないように、召喚士ギルドへ、彼らの人相や特徴を報告しておくべきだろうが、まずは保護が先決だ。だから、俺は裏口から出て、
「大丈夫かい?」
二匹を両手で、掬い上げるように拾った。瞬間、
――ガブッ!!
と、白い竜は指に噛みついてきた。
黒い竜は僅かにみじろぎして、ヌルっとした液体をこすりつけてきながらも、手に納まった。
白い竜の牙が突き刺さり、血は流れるが、
「よしよし、元気はあるね。とりあえず、ウチに来るといい」
黒い竜から出た液体は片手の中に広がり、ひりつく感じはする。皮膚からはブスブスと黒い煙も上がっている。ただ、この感覚には覚えがあり、
「おお、黒い子も凄いな! 皮膚が溶けて割かれるような痛みだ! 酸毒草に触れた時と同じ感じがするね」
ただ、実際に皮膚はとけてはいない。溶けるような錯覚があるだけだ。
「うん! 痺れに幻覚に溶解か! 毒だとしたら、良いものだね」
もっと観察したいが、まずは安全な場所に行ってからだと、そのまま運ぶ。
そして、二体を置くための場所を確保しようと、テーブルの上にクッションを置いたりしていると、
『どうして、触れ続けられるの?』
そんな声が、抱えた手の中から響いた。
――――――――
【お読み頂いた御礼とお願い】
本作品をここまでお読み頂き、有り難うございます。
別作品を連載中に筆が乗ってきたため、自分に気合を入れるつもりで、新連載、開始しました……!
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