第8話 『覗きがアウトなのは世界共通らしい』
フローラとフレイアの双子姉妹と、ちゃんと話し合おう。
その気持ちで家に帰り、部屋の先で待っていたのは着替え途中な二人の姿だった。
いや、正確には服を脱ぎ途中で……ほとんど裸な双子の姿だ。
不可抗力とはいえ、それを覗いてしまった俺は――。
「すみませんでしたっ!!」
――全力で、土下座をしていた。
経緯はまだ良く分かっていないけど、せっかく海外から我が家にホームステイに来てくれた女の子の裸を覗いてしまった罪はとても大きい。
もし俺が逆の立場だったらと考えると、絶対に不安になる。
だから俺は取り返しがつかない事をしてしまったけど、二人に安心してもらえるように全力で謝っていたんだ。
「ナ、ナオツグ! 顔を上げてください……!」
「そ、そうよ! 急に入って来た時は驚いちゃったけど、アタシなんて普段から似たような恰好だし……」
そんな俺に二人は優しい言葉をかけてくれて、天使かと思った。
でももう、そんな二人の好意に甘えてばかりではいられない。
ちなみに今の二人はちゃんと着替えたというか、着ていた服を着直していた。
フローラは。ワンピースタイプのゆったりとした部屋着で。
フレイアは、変な柄の大きめなTシャツと下はうん、灰色のパンツ……。
俺が百パーセント悪いのに。
フレイアの言い分もそりゃそうだよなと一瞬考えてしまった自分を殴りたい。
「……いや駄目だ! これからも一緒に暮らすのに、勝手に部屋に入って着替えを覗いてしまうだなんて最低な行為を俺はしたんだ! だから二人には、ちゃんと俺を罰してほしい!」
「な、ナオツグ……。こ、これが、ジャパニーズ、ハラキリ、セップク……?」
「ネエサン、それだとナオツグ死んじゃうから」
「ほわっつ!? し、死んじゃ駄目ですよナオツグ~!!」
ゆっさゆっさ!
駆け寄ってきたフローラが俺の背中を、身体全体を揺さぶっている。
土下座したままの俺はされるがままになっているけれど、これも罰の一部なら甘んじてこのグワングワンな視界を受け入れる覚悟だ。
……ヤバい、ちょっと気持ち悪くなってきたかも。
「わ、ワタシまだナオツグに全然お返し出来てません~!!」
「ふ、フローラ……ち、ちょっと揺らしすぎ……って、え? お返し?」
「あぅっ!?」
揺れまくる視界の中で、フローラが少し気になる事を喋った。
お返しとは、何だろうか?
俺はフローラとフレイアに出会ってから、まだ三日しか経ってない。
確かに最初の出会いで違うバスに乗ろうとした所を止めたけれど、それで感謝されるにしてはむしろ、俺がフローラに良くしてもらっているぐらいだった。
「俺、フローラに何かしてたっけ? バスはともかく、ホームステイで泊めるにしてもこの家の持ち主は俺じゃなくて母さんだし……」
「あっ、えとえとぉ、そのぉ……!」
俺が顔を上げると、フローラは目に見えて焦っていた。
いつもはのんびりと伸ばしている語尾も、焦りのせいか歯切れが悪い。
こんな状態の彼女に深く聞いて良いものかと助けを求めて視線を移すと、その後ろで妹のフレイアが大きな溜息をついていた。
「……ネエサン、分かりやす過ぎ」
「えっとレイア? これって、どういう……」
「ナオツグは気にしないで。これはネエサンが単純なだけだから」
「え? でもお返しって」
「ネエサンの裸を見たんだから、一回忘れて」
「……はい、すみませんでした」
それを言われたら何も言い返せない。
でも二人が、多分俺には言いたくない何かを隠しているような気がした。
もちろんそれが何か気になるけど、フローラがお返しって言ってくれているから悪い事じゃない筈である。
少しモヤモヤするけれど、二人の事をちょっとでも知れたのは嬉しかった。
俺って結構単純なのかもしれない。
「むしろ謝りたいのはアタシもなんだけどね……」
「え?」
「ううん、何でもないわ」
絶対嘘だ。
フレイアが呟いた言葉は、バッチリと俺の耳にも聞こえていた。
でもこの話の流れだと絶対に答えてくれそうにないので、上手く聞き取れなかったフリをしておく。
そうして黙っていると、フレイアが俺の隣にいるフローラの方を向いた。
「さてと。ネエサン、ちょっと良い?」
「レ、レイア……なに……?」
「別に怒らないから、ちょっと来て」
「あぅ~……」
プルプルと震えながらフローラが立ち上がり、フレイアに近づいていく。
こう見ると本当にどっちが姉でどっちが妹か分からないなこの二人。
フレイアはフローラにだけ何かを話したいみたいだ。
でもこの距離じゃまた俺の耳にもバッチリと聞こえそうなんだよな……。
『ナオツグ帰って来たし、さっきの続きをしても良いんじゃない?』
『え、でもぉ……』
『やろうって言ったのはネエサンじゃない。それにお返し、したいんでしょ?』
『う、うんっ……!』
とか思ってたけど、英語で話しをし始めたので何を言ってるかさっぱり分からなかった。
かろうじて俺の名前を言ってるのは聞き取れたのと、フローラの反応が分かりやすいのだけは理解出来た。
「じゃあナオツグ、ちょっとお願いがあるんだけど……聞いてくれる?」
「え? お願い? まあ、良いけど……」
どうやら話がまとまったようで、フレイアは俺に笑顔を向ける。
この流れで向けられる笑顔は正直怖いんだけど、覗きという前科があるのでもちろん断れない俺は頷いた
「本当!? ありがとう! じゃあアタシとネエサンは準備をするから、ナオツグは自分の部屋で楽しみに待ってて!!」
「わ、分かった……」
俺が頷くと笑顔だったフレイアが、更に満面の笑みを浮かべる。
姉のフローラに比べてクールな印象のフレイアがする心からの笑顔はギャップが凄くて、正直かなりドキッとしてしまった。
「あぅぅ~……」
それとは対照的にいつも笑顔なフローラは顔を真っ赤にしてチラチラと、部屋を出ていく俺の事を見ていたんだ。
楽しみに待っててと言われたけど、俺はこの後いったい何をされてしまうんだろうか……?
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