第6話 『友人変人ラブハンター』

 フローラとフレイアの双子姉妹と、スウェーデンの文化であるコーヒーブレイク、フィーカを俺は楽しんだ。

 途中で二人にどっちのお饅頭が好きかと迫られてしまった俺は、つい勢いに任せてどっちも好きと叫んで差し出された二人のお饅頭を食べて――。


「やってしまった……」


 ――絶賛、後悔中だった。

 俺の行動によってあの後は全員が変な雰囲気になって、フローラはともかくフレイアまでも黙ってしまった。

 でも今まで食べ慣れた地元のお饅頭の中で一番美味しかったし、フィーカ自体も楽しかったのは事実である。


 だからこそ俺の軽率な行動で微妙な雰囲気にしてしまったのを後悔していたんだ。


「空が、青いなぁ……」


 空を見上げて分かりやすい現実逃避をする。

 日課のランニングも気持ちが入らず、俺はコースの途中にあった池のある大きな公園のベンチに腰かけていた。

 春休みなだけあって家族連れが多くて、ここに三人でピクニックに来たら楽しめそうで……?


「まじか……」


 自分の考えに、自分で驚いた。

 まだ出会って数日しか一緒に過ごしていないのに、既に頭の中の選択肢にフローラとフレイアの二人が自然と入り込んでいる。

 確かに二人との生活は始まったばかりとは言え濃厚で濃密で、これから学校生活もあると考えたら、楽しみだとか悩みはつきなかった。


 何ていうかこれは、一人だった生活が急に騒がしくなって色づいたような、不思議な気持ちで――。


「ふっ……お悩みのようだな、友よ」

「うおおっ!?」


 ――そんな気持ちに、急に水を差す変人が目の前に現れた。

 予想外の不意打ちに、俺は背もたれの無いベンチから転げ落ちそうになる。

 

「ゆっ、ゆゆゆ、優斗ぉ!? 何でお前ここに!?」

「愚問だな、直嗣。恋の風ある所に俺あり……そう、人は俺をこう呼ぶ……ラブハンター……」

「もしもし、すみれ? 優斗の馬鹿が部活サボって俺のところに来てるんだけど」

「うおおおおおいっ!? そりゃないぜ、マイフレンド!!」

「うるさっ」


 あまりの声のデカさに耳がキーンとなった。

 いくら広い公園でもこんな大声を出されては嫌な注目を浴びかねないので、俺は耳にあてていたスマホの画面を目の前の変人に見せる。


「冗談だよ冗談……こんな一瞬で連絡出来る訳ないだろ」

「あ、焦った……本気で心臓止まりかけたぜ……」

「……で、優斗。何でお前、ここにいるの?」

「ここに来れば友に会える。そう信じていたから、かな……?」

「いや怖いよお前」


 怖いのに決め台詞と決め顔が妙に絵になるのが、このイケメンの罪な所だ。

 急に現れたこいつの名前は河海優斗かわうみゆうと

 一応、俺の幼馴染と言えば幼馴染で高校のクラスメイトだ。

 背が高く運動神経抜群で、その恵まれた身体を活かして水泳部のエースとして全国大会で入賞するレベルの天才である。

 そして何より顔が良い。男の俺が見てもイケメンだと思えるぐらいに整った顔つきで、街中を歩いていたら無数のスカウトが来るとか何とか。


「怖いのはお前だ直嗣! どうしてあんな心躍るメッセージを最後に連絡をくれないんだ!? この、ラブハンターの、俺にっ!!」


 だけど、馬鹿だ。

 致命的に馬鹿で、よく言えば明るいムードメーカーだけど、やっぱり馬鹿だ。

 それでも愛される馬鹿なので良いんだけど、多分コイツは今日もある大事な練習をすっぽかしてここにいる。


「突然アメリカから美少女がホームステイしてきて、しかもそれが絶世の美女な双子だった……その報告を聞いた時は心が弾んで夜しか寝れなかったぜ……」

「寝れてるじゃん……。それと、アメリカじゃなくてカナダだから」

「愛に国なんて、関係ないのさフレンド。そうは思わないかフレンド」

「言いたいことは分かるけど、無理に英語混ぜなくていいから……」


 こんな変な奴だけど、優斗はモテる。

 そりゃあもう、めちゃくちゃモテていた。

 だって黙っていれば超絶イケメンなのに、いざ接してみたら超絶馬鹿なのも逆に親しみやす過ぎて、良い意味でギャップを生んでいるんだ。

 大会の時とか、出待ちのファンとかが大勢来るらしい。

 どこの有名人だよって、いつも思う。


 まあそれでも……昔からの付き合いだから信頼しているのも事実で。

 だからフローラとフレイアの事も相談しようと連絡したんだけど、怒涛の同棲生活によって完全に返事を忘れていたんだ。


「返信出来なかったのは……ごめん。色々な事があり過ぎて、忘れてたんだ……」

「良いさ。その顔を見れば分かるぜフレンド……」

「まだ言うか……ていうか俺、そんな分かりやすい顔してる?」

「ああ。口の横に、伊城山饅頭の薄皮生地がついているな」

「マジで!? うわ、マジだ!」

「危なかったな直嗣。俺が美少女だったら、きっと指でつまんで食べていたぞ。そして舌をチロッと出して少し恥ずかしそうにしながらも悪戯に微笑むんだ」

「……ご忠告どうも」


 手の甲で擦ると、本当に饅頭の生地がついていた。

 フローラとフレイアのお饅頭を同時に口にいれた時についたやつだろう。

 嫌に具体的な想像をさせてくるイケメンの発言は、とりあえず無視だ。


「さあさあ聞かせてもらおうじゃないか直嗣。この数日間で、お前に……いやお前たちの身に何が起きたのかをっ!!」

「分かったから……離れてくれない?」


 イケメンは俺の隣に座り込むとそのまま肩を組んできた。

 おまけに足まで組んでいるのに、それもまた高身長イケメンだから様になっているのだから腹が立つ。

 それでも、こうして会いに来てくれたのはありがたいし嬉しかった。。


 ……俺がここにいるなんて一言も言ってないのが、怖いけど。


「まずは、海外にいる母さんから女の子がホームステイしてくるって前日の夜に聞かされた所から始まるんだけど……」


 でもこのイケメンの行動力が怖いのは元からだ。

 だから俺も気にせずに、フローラとフレイアの双子姉妹と出会ってから今日までの事を話し出した。

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