青空が見えるようになるまで
一ノ瀬シュウマイ
第1話 冬空
見えるのは病院の窓からの景色。
澄んだ空気に雲ひとつない青い空。
すごく綺麗な景色だ。
「ただいま、和人さん」
■■■
「おい、和人、和人起きろ!」
「んんぇ」
目を開けると、そこはポテトチップスとかのお菓子の空やゲーム機などが散乱している部屋だった。
そして、俺はその部屋のこたつで横になって寝ていたみたいだ。
俺は、情けない声をあげ起き上がる。
「おはよう、天野…」
「おはようじゃねーよ。お前何時だと思ってるんだよ」
目の前には、激怒する我が親友天野真一の姿があった。
天野は、こたつに入りながら壁掛け時計を指差す。
「お前、もう夜の9時だぞ。ゲームで負けたと思ったら急に寝るんだから」
「すまん、すまん。10時ぐらいになったら帰るから後ちょっと横にならせて」
「本当に、10時なったら帰れよ」
呆れた口調で天野はそう返事をする。
天野の、言葉で眠気が冷めふと夢のことを考える。
あの場所は、どこだ?
あの夢は何だったんだ?
もう、覚えていなかった。
ふと、俺は天野に話かけたくなる。
そして、こたつに横になりながら天野に背を向け俺は咄嗟に思いついた質問をした。
「なあ、生きる意味って何だと思う?」
「はあ?」
天野からは、疑問形の綺麗な「はあ?」が帰ってくる。
こたつで寝っ転がってるやつが背を向け急に深いことを言うので無理はない。
「いや、生きる意味ってわからないじゃん」
「まあね、でも個人個人生きる意味ってのは違って自分で探すもんなんじゃないの?」
「そんなもんかね」
俺は、天野にちょっと正論っぽいことを言われちょっとイラッとしたのでそのまま会話をぶったぎった。
「まあ、ふとそんなこと思うよな。俺も思うし。まあ俺の生きる意味はこの異常気象を解明することただ一つ!」
「はいはい、天気オタクを乙」
俺は、天野の1人語りを適当に受け流す。
でも異常気象を解明してほしいのは本当だ。
例年なら7月の今頃はセミが鳴いていて極暑だ。
しかし、3年前からの異常気象で7月にも関わらず真冬の天候だ。
「ていうか、もう10時なるぞ。明日も学校だし早く帰れ」
「へいへい」
俺は、天野に言われ重い腰を上げこたつから出る。
そして、ハンガーにかけてあったブレザーとコートを着て天野の部屋から出る。
天野は、玄関まで見送りに来てくれた。
「寒いな、気をつけて帰れよ」
「おう、ありがとう」
そして、天野宅を後にする。
外は家の中と違って極寒だった。
俺は、コートのポッケに手を入れ駅へ向かって歩いた。
居酒屋や飲食店、コンビニの光が妙なぐらいに目立つ。
それは、夜なのもそうなのだがこの3年前からずっと晴れない雪雲のせいも相まって余計に暗かった。
寒い…。
とにかく寒かった…。
3年前、東京でも大雪が降った。
当時は、交通網が全部麻痺、首都機能も麻痺した。
以来この地球の気候全体がおかしくなりその時から現在に至るまでこのとてつもない寒冷の異常気象が続いている。
氷河時代の再来という専門家も多いが未だにこの異常気象の原因は不明である。
3年前のその日から気象庁が出した異常気象宣言も未だに解除されいてない。
雪雲は晴れることがない…。
もう太陽は顔を出さない…。
青空が見れることもない…。
地球全体は、その日から寒く暗いムードになっていた。
そう、その頃だっただろうか…。
俺も暗い人間になっていったのは…。
一面雪が降りしきるこの雪原…。
見るだけで嫌気がさした。
駅に到着すると、真っ先にホームに向かった。
ホームには待合室がなくただ極寒の中ポケットに手を入れて突っ立って待っているだけだった。
ホームの電光掲示板を見ると次は快速電車でこの駅は通過する電車だった。
なので15分くらい突っ立って待つことになる。
駅に来ると未だに胸が苦しくなる。
もし、電車が来ると同時に飛び降りたら楽になれるのだろうか…。
そんなこともふと思う。
「はあ」
吐く息も白かった。
途方に暮れ、ふとホームの横を見ると、もう1人電車を待っている少女がいた。
その少女は、小柄で顔色が悪く、ものすごく厚ぼったいコートを着てマフラーを巻き、手袋をしてニット帽を被っていた。そのニット帽の後ろからは髪が出ていて肩に黒髪がかかっていた。
とても寒そうで今にも凍え死にそうな姿をしている。
すごい寒がりで、冷え性なのだろうか?
俺はその少女を見てそう思った。
『まもなく快速電車が通過いたします。黄色い線の内側までお下がりください』
駅のアナウンスがなった。
しばらくすると電車の汽笛の音、そして光それを合図にその少女は黄色線の内側までゆっくりと歩き始めた。
嫌な予感がした。
俺は咄嗟に、その少女の元まで走り線路に飛び降りようとする少女の手を無理やり掴み思いっきり引っ張った。
「危ないじゃないか!」
驚いたので少し怒鳴り口調になってしまった。
話しかけても少女は黙ったままだった。
尻餅をついて、転けたままの少女に手貸そうとすると少女は涙を流していた。
「だ、大丈夫?…」
咄嗟に出た言葉はそれだった。
しかし少女は泣いて黙ったままだった。
もう一回手を貸すと少女は手差し出してきたのでそのまま立ち上がらせた。
「と、とりあえず、駅員室連れて行こうか?」
俺は少女に問う。
「いえ、大丈夫です…」
初めて口を開いた。その声は泣いた後の声と寒さも相まって震えており、今にも消えそうな灯火のようだった。
「いやでも君、具合悪そうだし」
「大丈夫です…」
頑なに大丈夫だと言い張る少女。
しかし、言っている姿は弱々しかった。
「あの、ありがとうございます…」
「えっ?」
少女は急に震えた声で感謝を口にした。
「正直、飛び降りようとした瞬間すごく怖くてやっぱり死にたくないっていう気持ちになりました」
多少声が震えていたが、涙がおさまったのかさっきよりは饒舌に話せていた。
「これに懲りたら、もうあんな真似するなよ。だいたい君中学生ぐらいだろ。この先人生長いんだから」
そう言うと、少女は少し曇った表情をした。
そして、ゆっくりと口を開く。
「こう見えて、私17歳の高校2年生なんです。小柄だから間違われやすいんですけど」
「そう、なんだ…」
少女の年齢が俺の一個下だったことに動揺してぎこちない返事をしてしまった。
「今日は、本当にすみませんでした!」
少女は全力で頭を下げ謝罪するとぎこちない走りかたでその場を去った。
残された俺は、1人電車に乗り家へと帰宅した。
しかし、なぜ彼女は飛び降りようとしたのだろうか…。
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