2度目の人生は滅茶苦茶に

@kiokusyoko

第1話 2度目の人生は突然に

もう見慣れた病室、聞き慣れたアナウンス、見飽きた看護師の顔…看護師の顔はどうにかならないものか…こちらを見る度に嫌な顔をしおる…全く、こちらが老人だからって見下しおって…今度この病室に来たらひん剥いてや…いかん、また考えてしもうた。


「この歳になっても、治ることは無かったな…」


掠れた声はすぐに1人の病室に消えていった若い頃から持っていたこの感情、決して行動に移すことはしなかったがいつも頭を蝕んでいた感情、世間一般的にはカリギュラ効果と言われるらしいが頭を埋めつくされるほどこの感情に苛まれる人間は自分以外にいないのではないだろうか。実際にそれらをしていたらどうなっていたのか、気になって仕方がない。若い頃に読んでいたライトノベルの告白シーン、あのシーンで主人公がヒロインをボロクソに振ったらどうなるのか…何度妄想をしても胸の奥がもやもやする。あぁ、もう一度人生をやり直せるな…


「っ!!!!あ、頭が割れる…!!」


急な目眩、頭痛に襲われる。もう長くはないと分かって覚悟もしているはずだが死ぬのが怖い、早くナースコールをしなければ…


「うっ…もう一度…」


目の前が真っ暗になった


「貴方…すごく可哀想な人間ね」


急にそんな声が聞こえた、助かったのか?それとも幻聴なのか? 意識はあれど何も見えない、何故なのか


「目は使えないわ、貴方に残っているのは聴覚だけ、思っていることは私が感じ取れるわ。」


…なるほど?しかし自分の事ながらこんな展開をあっさり受け入れていることに驚くな


「そんなこと知らないわ。人間と関わることなんてそう滅多にないし。」


ではなぜ私は…?


「貴方があまりにも可哀想だったからね」


可哀想?物腰柔らかい妻を貰い子宝にも恵まれて孫にも会えた、それなりにいい人生を歩んで来たつもりだったのだが


「そんな所を哀れんでいる訳では無いの、貴方が抱えていた感情よ、感情」


感情?…死ぬ寸前まで考えていた事か


「そうよ、その事。死ぬ前の一瞬までそんなことを考えるなんて、一体どれほど渇望していたのかしら。」


まぁ50年そこら抱えてきた悩みだからな。しかも決して解決することの無いものだ


「じゃあもしそれが出来ると言ったら?」


なんだと?それは一体


「やり直させてあげるわよ、人生」


人生をやり直せる…???輪廻転生ということか、つまり人は巡り巡って生まれ変わっているのだな。


「まぁそうではあるんだけど、貴方のは特別、生まれ変われるのではなくてある時間軸に飛ばしてそこからまた始めるということ、分かりやすくするとセーブ地点からやり直すってとこかしら」


…わかりやすい、わかりやすいがなぜ神とやらが知っているのか


「神だからかしらね。そんなことはどうでもいいわ、さあ早く選びなさい。貴方が何歳の頃にやり直したいのかしら」


本当にやり直しの機会を貰えるのだろうか…貰えるとしたら何歳から、悩みどころである。


「そんなに時間を与えるつもりは無いわよ、あんまりサボってる時間は無いし。」


…そういえばあのライトノベルの物語は高校生だったな、せっかくなら高校生に戻ろうか。

青春のタブーを破ってみたいものだヒロインの子を滅茶苦茶に…よし


「…決まったみたいね、動機は穢らわしいけど」


そんなこと分かりきっているさ。さ、15歳で頼むよ。時期は中学卒業後からにしてもらおうか。


「口調はなんだか腹立たしいけど、まあいいわ」


最後に聞きたいのだが、なぜ私がその権利を得ることが出来たんだい?


「だから言ったでしょ可哀想だから、それにちょっと興味があったしね」


なるほど、ありがとう。それでは頼む


「はいはい、それじゃお達者で。せっかくの二度目の人生、後悔なく楽しむのよ。」


…なんだかんだ優しいのだな


「聞こえてるわよ」


おっと。


目の前が真っ白になった

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