第34話 点と点が繋がるとき
「おはようございますっ、四津谷先輩っ」
なつきが上靴を取り出していたところ、靴箱の影から、ここあがひょっこり現れる。
「おお、びっくりした。おはよう、この前のダブルデート以来だね」
「そ…そうですね……あの作戦大失敗のダブルデート……」
「んん? 何か言った?」
上靴を履くなつきが顔を上げて、ボソリと呟いたここあに尋ねる。
「ああっ、いえっ……た、楽しかったですよねっ……」
「うん、そうだね。おかげで天音ちゃんとデートが出来て嬉しかったよ。ほんと、誘ってくれてありがとね」
「い、いえ……あのっ、四津谷先輩はやっぱりその……小野崎先輩のことが好きなんですよね……?」
「えっ、天音ちゃん?」
「は、はい」
「そうだなぁ〜、まあボクのタイプだからね。気になる存在ではあるかな。それにああいうタイプの子って落としたくなるんだよね。ボクのこと全然、振り向いてくれないからさ。あははっ」
「……なんとなく分かってはいましたけど、やっぱりそうなんですね……はあ、小野崎先輩が羨ましいです……四津谷先輩をこんなに夢中にさせられるなんて……それにしてもズルいですっ、小野崎先輩っ。どれだけモテるんですかっ、ちょっとモテすぎですっ」
軽く地団駄を踏み、プンスカ、プンスカと怒るここあ。
「あははっ、天音ちゃん可愛いからなぁ。仕方ないんじゃない?」
「そ、それはそうかもしれないですけど。だとしても……だとしてもですよっ?」
「んん?」
「多数のイケメンたちから告白されてるんです、小野崎先輩。まあ、そのたびにみくちゃんが阻止してるから、彼氏は出来てないみたいですけど。なのにそれでも絶えずイケメンたちから告白されてるっぽいんです。いつもみくちゃんがすっ飛んで行くから、また告白されてることが嫌でも分かるんですよね、こっちは」
それを聞いたなつきは、
「へえ。天音ちゃん、そんなに告白されてたんだ」
と、普段通りに話すが、その横顔からは笑顔が消えている。
それに気づかずに、ここあは続けて話す。
「そうなんですっ、ほんとにモテすぎてズルいですっ。イケメンだけならまだしも、四津谷先輩まで好きにさせちゃうなんてっ。ほんと魔法の力でも使ってないと逆に納得できないですっ。はあ〜あ……今は小野崎先輩みたいな控えめで可愛い女の子がモテるってことなんですかね」
「……そうかもね」
ここあに返事を返してはいるものの、なつきはどこか遠くを見つめて、ひとりごとを言うように呟いていた。
◇
最上階の階段の手すりに寄りかかり、考え事をしているなつき。
「多数のイケメンにだけ……絶えず告白される――かぁ。うーん、確かに魔法でも使ってるみたいだなぁ。……んん?」
(もしかして、あの時の指輪が関係してる?)
なつきは天音の手を掴み、初めて指輪を見た時のことを思い返す。
それから、
「あっ、そういえば天音ちゃん、前に妙なこと言ってたな」
なつきの頭の中で、以前、二人だけで初めてデートした時の記憶が鮮明に蘇る。
『えっと……その……な、何か変わったこととか起こったりしませんでしたか……? その指輪があるときに…』
『変わったこと? うーん、別に何もなかったけど?』
『あっ、そうなんですね。良かった……』
『良かった?』
『ああっ……い、いえ……あ、あの指輪からパワーを感じるなぁ…なんて思っていたので、も、もしスピリチュアル的な指輪だったら何か起きてるんじゃないかなぁ…って思ってたんです……あは、あはは……』
『へえ~、ボクは何も感じなかったかなぁ。キミはあの指輪を持っていて何かあったってこと?』
『えっ……!? あっ、あの……わ、私はパワーを貰ってるような気がするだけです……』
『ふーん、そっか』
そんな会話を思い返したなつきは、
「なるほど。そういうことね――。」
と、意味深に笑みを浮かべた。
◇
「バキュン」
指輪をつけている人差し指から、光が放たれ、イケメンの男子生徒の体を正面から狙い通りに射抜いた。
(きっとみくに邪魔されるだろうから、一応、指輪をつけてバキュンしたけど……いや、もしかしたらすぐに告白の返事をすれば間に合うかも。ん〜、でもやっぱり、いつもみたいに、みくの方が早く来ちゃうかな)
そんなことを考えていると、男子生徒が、
「あ、あの。ちょっといいかな」
と、私の前まで来ていた。
「あっ、はい」
「突然、君に一目惚れしたみたいなんだ。ほんと、俺もよく分かんないんだよね。君みたいなタイプの子を初めて好きになったからさ」
「へ、へえ、そうなんですね」
「うん、俺の好きなタイプって本当はギャルみたいな感じの子なんだよね。でも、今は君と付き合ってみたいって思ってる」
「な、なるほど」
(……ってあれ? いつもならもうみくが来てる頃だよね?)
キョロキョロと校内を見るが、周りには誰もいない。
「ど、どうかな」
「えっ? あっ……その……ごめんなさい」
その直後、イケメンの男子生徒は、緊急停止ボタンを押されたロボットのように、頭がガクンとなっていた。
それから、ゆっくりと顔を上げる。
「んん……? なんで俺、ここにいるんだっけ……まあ、いいや……あっ、うっす……」
ややボーっとした様子でひとりごとを言ってから、会釈したあと、
(タイプってわけじゃないけど可愛いかったなぁ……まあ、でも彼氏とかいるんだろうなぁ……)
去り際にそんなことを思いながら、その場を後にした。
「……」
軽く会釈を返して、彼を見送ったあと、私は我に返ったかのように「あれ?」と声に出す。
(どうして私、告白を断ったんだろう。ん〜、ギャルみたいな子がタイプって言ってたから……かな)
「あっ、いたいた~」
「えっ?」
突然、後ろから声がしたため、私はすぐに振り向いた。
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