どうか可愛くあれますように、と願う
世界への細やかな抵抗として伸ばしていた爪について父に指摘された。爪を伸ばすような男は女々しくて嫌いらしい。そうだね、と私は返した。本当はベースコートだけでも塗っていくつもりだったけど、塗らなくて正解だったと思う。
以前、母にも似たようなことを言われた覚えがある。紫のネイルを塗っているのを見せたら、それはオカマのする色、ことだと。そうだね、と私は返して爪を隠した。
私は可愛くなりたかった。現実でも少しだけ足掻いて、ネイルを塗ってみたりはしてみた。でも、ある日、母親にビデオ通話で爪を見られたとき、それはおかまのすることだよ、と言われて、ぽきりと折れた。それから、あまり可愛らしい色の爪にはせずに、なるべく男の人がしても違和感のない色を選ぶようになった。
私はあなたたちを愛してみせるから、どうか私を愛していてほしい。醜い自我を抑え込むことも出来ない私を。私を置いて幸せにならないで欲しい、と身勝手なことを思ってしまう。野良犬のようにあなたたちに懐く私を許してほしい。
私は可愛くなりたかったのだと思う。私の現実での肉体は男だし、性自認も男、恋愛対象は女の人、でも、その恋愛対象というのもインターネットではどぉぉでもいいと思っていた。実際に、過去に"なりきりチャット"という遊びをして恋愛的なロールをした相手は皆画面の向こう側に男の肉体を思っていた。でも、どうでも良かった。私はキャラクターとしてのあなたが好きだから。捧げられるのが魂のひと欠片ぽっちでも、どうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます