第21話 充電

 江洲の前だとあたしはダメダメになるって分かった。

 それがイヤじゃないから、我ながら呆れると云うか……。

 でも、あたしの全てを受け入れてくれるって、嬉しいんだよ。


 江洲があたしの事をどう思ってるのか知らないけどさ。

 あたしは、恋の予感を感じるんだ。

 江洲に抱き締められて、ギュっとされて、キスされて、とは違うんだけど、この人を好きになる、好きになってしまうって。


 我儘なお嬢様が、執事になんだかんだ言って、その通りに言う事を聞いて甘やかしてくれるマンガとかであるパターンに似ているかも。

 あたしの場合は、メイド喫茶のメイドさんで、個室の時からずっとメイドの方が我儘でって逆パターンになってるけど。


 ほら、江洲って淡々としているしさ。

 それでいて、あたしに甘いんだよね。


 甘いと言えば、これもマンガとかで良くあるんだけど、好きな人にハグして『充電』とかもあるけど、あたしにとっての『充電』は、ハグじゃなくて、って感じと云うばいいのかな。

 って、あたしが『充電』って意識している時点で、予感じゃないのかも知れないけど。


「帰ろう?」

 その言葉に、あたしは蕩けた顔で、江洲の顔を見て、首を横に振る。


「えっ?……やだぁ……だめぇ……もうちょっと、もうちょっと……充電してよぅ」

 考えていた言葉を、おねだりするように訴える。

 ホントに、もうちょっとなんだから。

 あたしに『マゾです』って言わせておいて、こんなのないって。


 江洲があたしの腕を取って、江洲の腰に回すように誘導してきた。

 違うのぅ、違うのぅ、言ったじゃん、もうっ。

 なんて思っていると

 

「充電しないとなんでしょ?枝務さんのマゾ性を満たす充電器なんだから」

 その言葉にカーって顔が熱くなる。

 江洲の事を充電器なんて思ってない。

 でも、あたしの被虐性を満たす事が『充電』だと指摘されて、被虐性が膨れ上がっていくのも確かだから。


「そ、そんな事……思ってないし……」

 否定の言葉をい言ったけど、自分でも何に否定したのは分かんない。


「充電される側と充電する側はセットでしょ?」

 あぁぁっ……やだっ、だめ、恥ずかしい。

 『マゾとサドはセット』って名言してないけど、そう言ってるんだよね?

 そして、あたしのMっ気を一方的に満たすって感じの言い方も、恥ずかしい。


 腰に誘導された手でキチンと腰に手を回して、身体を密着させてモゾモゾと太腿を動かしながら、頷いて。

「もうっ……あ、あたしが充電したら、そのさ……嬉しいわけ?」


「当然でしょ」

 せっかく少しいつもの調子の言い方で言ったのに、即答でそう言われると、江洲にずっと充電させられるように感じて、期待して、江洲だけがあたしを充電できるんだって思っちゃう。


「ど、ドS……」

 小さい声で悪態をついたつもりだけど、クスと笑って江洲が耳元で

「枝務さんはドMだもんね」

 嬉しそうに囁かれて、肩がピクンって跳ねて

「あっ……んっ……やだぁ……ばかぁ」

 また、甘ったるい声に戻っちゃう。


 『マゾ』とか『ドM』とか、暴露するのも指摘されるのも、凄く興奮しちゃう。

 しかも、『ドS』って言った相手は、否定しないし、クラスメイトだし。

 個室で散々、痴態を晒したばかりだし。


 身体の奥底の疼きが止まらない。

 私の奥底から現れて、表に出ている被虐性も隠せない。

 今迄、誰に対してもこんな風に甘える事も無かったのに、江洲だと勝手に甘えて、おねだりして、私の全てを見抜いて、暴いて欲しくなるんだよね――。

 

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