第16話 タイムリミット

 あたしは、自分が『マゾ』だってだって気付いた時からずっと、ずっと隠してた。

 それを暴かれて、見抜かれて、言わされて……。

 すっごく満ち足りていくのは、隠していたから?


 だったら隠していてよかった。

 勝気な女子を演じていてよかった。

 この時の為に、ずっと抑えていたんだって……。

 冴えないクラスメイトにこうやっていじめられて、堪らなく興奮しているから。


 こんなサービスなんてホントは無いのに。

 江洲の手で指で口で視線で、あたしは苛められ続けて……。

 それで身体全体で悦びを表現して、そして何度も果てた。


 さすがに最後まではしなかったけど……。

 されても良かったんだけど、やっぱりメイド喫茶だしね。

 お互いにゴムとか持ってなかっただろうし。

 ギリギリセーフ?アウト?


 まぁ……された事はギリギリを越えてたかもだけど……。

 サービス通りにお尻を叩かれて、乳房の先端の固く尖った突起やあそこを弄られて、被虐性を煽られて、あたしが勝手にイっただけとも言えるし。


 あたしはソファーに座る江洲の脚を跨いで、正面を向いた状態で太腿の上に座って、江洲の顔をチラチラと見ちゃう。


「そろそろ時間だね」

 スマホを手に取って、撮影された動画を見ながらポツリと零す江洲。


 やだ、まだって思っちゃう。

 真っ赤になってると分かる顔を隠すように前髪を弄りながら、俯いてはチラチラと江洲の顔を見て。


「うっ、うん……あのっ……」

 あたしは何を言おうとしてたんだろう。

 自分でも分からないけど、江洲が言葉を重ねてきた。


「それにしても……枝務さん、迫真の演技だね」

 えっ?ちょっと待って?何よそれっ。

 思わずまた顔を上げて江洲の顔を見ちゃった。


「こんなの誰に見せても、信じる人なんていないだろうし。学校の枝務さんと全然、違うから」

 その言葉に顔が更に熱を帯びるのが分かる。

 恥ずかしい。

 けど、嬉しい。


 多分、間違ってないと思うけど、江洲は一度リセットして学校で、1からやり直したいって言うか……。

 勝気なギャルのあたしの奥底を暴くところから、だよね?


 学校っていつもの空間であたしが『実はマゾです』とか、

 『それを初めて知りました』ってのをやりたいんだって分かってしまう。


 ああっ……まだバレてなくて、バレて開放する所をまたできるんだ。

 って思うと、あたしは江州の話にのっかかる。


「あっ……当たり前じゃん。あんたモテなさそーだし、ちょっとサービスを追加してあげたの。感謝してよぅ……」


 意地悪な言葉攻めに頭がクラクラしそうだけど、普段の口調で言ったつもり。

 髪の毛を耳の上にさらりと掻き上げ、いかにもサービスしてあげた感も出したけど、声音も表情もきっと普段通りじゃないんだろうなぁって思う。


 嬉しそうに笑ってる江洲が、頷いて

「うん。いきなりノーパンノーブラで部屋に入って来た時から感謝してるよ」


 もうっ……ばかっ。

 身体がくねくねしそう。

 恥ずかしくて目が潤んじゃう。


 ――ホントに意地悪、いぢわるなんだからっ。

 終わりたくないけど、明日はもっと……?

 1時間とかじゃなくて、これが終わったら時間制限なしだもんね。

 『明日もノーパンノーブラなんだよね?』って、意味なのが分かっちゃう。


「へ、へんたいっ」

 なんて言ったけど、ヘンタイなのはあたしって知ってるから気持ちの昂りが……。


「そういえば……うちのクラスって学園祭はメイド喫茶だよね。枝務さんもメイド役だっけ」

 もちろん、このお店みたいにスカートはギリ丈じゃなし、可愛いけどミニ丈の普通の?メイド服。


 もちろん、ちゃんとスカートの下には見えてもいいアンダーも着けるよ。

 そして、あたしはもちろんメイド役だったけど、これは何て言うか……。


 『ヘンタイ』を華麗にスルーして、逆にあたしが『ヘンタイ』だと意識させておいて、ここで学際の事をぶち込んでくるとか……。


 このドS。

 意識させないでよ。

 期待感を抱くような……羞恥を煽ってくるような江洲の言葉。

 ダメっ。

 我慢できなくなる――。

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