第19話 出発の朝/魔王サイド:映像日記より
「お待たせしました!こちらが3人分の通行証になります」
リリーさんの仕事人魂を感じるスマイルと共に、通行証が受付のカウンターに置かれる。これは首都へ通じる関所を通るための物。俺達はその通行証の発行手続きをするために、冒険者ギルドへと来ていた。
「ありがとうニャ!」
こう言う手続きには慣れっこのスズネが、率先して対応する。今回はリリーさんの前でも、余所行きモードの喋り方はしていない。心境の変化と言うやつだろうか。
「いえいえ。それにしてもスズネさん、雰囲気変わりましたね」
「変かニャ?」
「そんな事ありませんよ!確かに私達の知るスズネさんのイメージとは違いますが、今の方が可愛らしくて好きなくらいです」
「なら……良かったニャ」
リリーさんのストレートな表現に、スズネはポリポリと顔を掻いて口ごもる。今まで冒険者ギルド内では自分を抑えて来たらしいスズネが、本当の自分を好きと言ってもらえて嬉しいやら恥ずかしいやらと言った様子だ。
「通行証の手続きはこれにて終了です。あと、ソルトさん達にお手紙が届いていますからお渡ししますね」
「手紙?」
「はい。先日ソルトさん達が達成した依頼の依頼人からですよ」
「ああ、あの素材回収の」
俺がリリーさんから受け取った手紙を広げると、ルイーナとスズネも両脇から手紙を覗き込んだ。今は受付に人は並んでいないので、ここで読んでしまっても良いだろう。
『依頼を受けてくれた冒険者さん。ありがとうございました。お母さんの病気を治す薬を作ってもらうのに、素材が必要だったんです。薬代を取っておかなくちゃいけなくて、お金はたくさんは出せませんでした。集めるのが大変な素材だって聞いたから、もしかしたらこのお金じゃ誰も受けてくれないかもって思ってました。だから素材が集まったって聞いた時はすごく嬉しかったです。これでお母さんは元気になるはずです。本当にありがとうございました』
「この依頼、受けて良かったな」
手紙を読み終わった俺は、素直にそう思った。
「この子のお母さん、早く元気になると良いですね」
「そうだな」
俺はルイーナに頷く。
「なんかあったかい気持ちになったニャ」
「俺もだ。こんな風にこれからも人を助けられたら良いな」
俺達の目的はダンジョンの
「それでしたら首都にもギルドはありますから、良ければそちらでも依頼を受けて、困ってる人を助けてあげて下さいね!」
「はい、ぜひそうしたいと思っています」
俺はリリーさんの商売文句に乗っかる形で返事する。時間が許すのであれば、依頼はまた受けたい。
「じゃあそろそろ馬車と待ち合わせの時間だから行くニャ」
「いってらっしゃいませ。ソルトさん達の旅を応援してます!どうかご武運を!」
「ありがとうございます。行ってきます!」
リリーさんの笑顔に見送られながら、俺達はサフサのギルドを後にした。
◇◇◇◇◇
同日。フサレリア王国より離れた暗黒島・魔王城にて。
・魔王の側近 ミラージュ視点。
雷鳴が轟き、暗雲立ち込める魔王城。本日も我らが魔王様の愛らしいお姿を記録するのに相応しい天候でございます。それでは日課である魔王様の映像日記撮影を、このミラージュのスキル【映像記録】にて永久保存してまいります。
「して、余が暴走させたルビードラゴンが倒されたとな?」
麗しいお声が玉座の間に響き渡ります。このお声の持ち主こそ、我らが至高の御方。わたくしのスキル【幻影再生】により投影された、理想の黒髪ロングのグラマラスボディで健気に威厳を示そうとする魔王様にあらせられます。
本当は幼い子供のような体型でいらっしゃるのに『ミラの胸よりもバインバインにして欲しいのじゃ!』と、幻影の注文をされた時のキラキラしたお顔。たまりませんでした。
「左様にございます。まだ詳しい事は分かっておりませんが、あの国に女神が勇者を召喚し、ルビードラゴンを討伐したとの噂が立っています」
報告をした者の名はロゴテス。2名いる魔王幹部の内の1名で、筋骨隆々のむさくるしい男。むさくるしい割に、こう言う情報を持って来るのが早いのが気に入りません。
「ふん、噂程度しか持ってこれないの?それにしてもポッと出の勇者に倒されるなんて、あの宝石ドラゴンもよわよわだったのね!」
こう言って偉そうな態度を取る小娘は、もう1名の幹部であるメイス。強気な態度を取るだけあって、ここにいる中で魔王様に次いで強いのがむかつきます。
「貴様!あのドラゴンにお力を与えて暴走させた魔王様まで愚弄する気か!」
「なによ、そこまでして頂いたのにあのドラゴンがザッコザコだっただけでしょ?アタシは魔王様のお力は否定してないわ」
魔王様の御前だと言うのに口論を始める幹部両名。この仲の悪さには困った物です。
「まあメイスの言う通りじゃ。所詮は女神の造った精霊。女神の創造の力は余達をお造りになった創造主の足元にも及ばんと見た。じゃから両者口論を控えよ」
「「はっ!」」
そんな幹部達でも、魔王様への忠誠は本物。2名とも魔王様本来の子供体型の事は知った上で、グラマラスな幻影については触れないようにしながら付き従います。
「ロゴテスよ。余の邪魔をする勇者とやらは、今どうしておるのじゃ?」
「私のスキルで得た情報に寄りますと、勇者は仲間を連れて首都フサレリアへ向かうと思われます」
「ふむ。であれば王に会う気であろうな。いくら木っ端と言えど、群れると少々厄介じゃ……」
ロゴテスの推測をお聞きになり、思案しておられるお声とご様子はまさに芸術の域でございます魔王様。
「決めたぞ。余が直接出向いてやろう」
「なんですって!?……お、御身自らでございますか?」
流石のメイスもこの決断には驚いたようです。ええ、わたくしはもしやと思っておりましたので、ちょっとびっくりしてお水が漏れそうになっただけで済みましたとも。
「そう驚かんでも良いじゃろう。女神の選んだ勇者とやらがどのような者であろうと、余が直接潰しに行けばそれで終わりじゃ。それに勇者を首都にいる王国民の前で葬れば、あの国に対する良い見せしめにもなろうて」
「流石は魔王様。そこまで計算されておられるとは。私どもでは考えつきませんでした」
ああ、本当に聡明な御方……。ロゴテス、もっと魔王様を称えるのです。
「では決まりじゃな。ミラ!フサレリアまでの供をせい!まだ余の華麗なる姿をあの王国に示しておらんかったからな。バッチリ幻影を拡大して、この偉大なる魔王の威光をフサレリア中に知らしめてやるのじゃ!」
「承知致しました。このミラージュ。粉骨砕身、力を尽くす所存にございます」
よっしゃあああ!!魔王様と王国デートぉぉぉぉ!!!
……いけませんね。心が喜び過ぎて【映像記録】に乱れが出そう。
魔王様のお姿は常に最高画質で映像に残さなくてはなりませんし、今日の映像日記撮影はここまでにしておきましょう──
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