『スキンヘッド中のスキル100億倍』って流石に頭バグってない?

丸山マル

第1話 俺の頭がバグっている

『あなたの特殊能力は”頭をスキンヘッドにしている間のスキル効果100億倍”です』


 100億倍?え、数字の桁おかしくない?バグってるのか?

 いやいや、俺の見間違いの可能性だってある。もう一度この女神様直筆の手紙を読み直してみよう。


江頭えがしら 剃人そると様。私は世界の外側に存在する女神です。誠に勝手ながら、あなたを私の管理する世界に転生させました。つきましては、私の書いたこの手紙にて説明を致します。始めに、ソルト様には勇者として魔王を倒し、この世界を救って頂きたいのです。転生に際して、勇者として相応しい能力を付与しました。あなたの特殊能力は”頭をスキンヘッドにしている間のスキル効果100億倍”です』


「やっぱおかしいだろ!設定ミスだよなこのスキル倍率!確かに俺はスキンヘッドだけどこれで世界を救えるの!?しかも転生させたとか、そんな大切な事直接言わずに手紙!?あと字がちょっと可愛いの腹立つわ!」


 俺は耐えきれず声を上げた。おかしな所にツッコミたかったのもある。けれどそれ以上に、自分が命を落としたのだと信じたく無くて感情が爆発してしまった。

 俺は人との待ち合わせに向かう途中、トラックに轢かれそうになった子供を守って代わりに轢かれた。そこで記憶は途切れている。24歳で死ぬ事になるなんて夢だと思いたかった。だがどうにも夢とは思えないリアルな感覚が、これは現実だと俺に告げている。

 そうならジタバタしても仕方ないので、少し落ち着かなければ。


「あの子、ちゃんと助かったのかな?」


 助けられたならそれも悪くは無いか。……さあ手紙の続きを読もう。


『あなたを勇者に選んだ理由は、自分を顧みずに他人を助ける事が出来るその勇気です。他にもスキンヘッドを維持するために毎日剃るそのお姿。スキンヘッドの似合うその頭、とても素敵です』


 ん?なんか変な事書いてないか?


『話が逸れました。実はソルト様の転生は緊急事態だったので、転生場所を安全な所に指定する事が出来ず、ダンジョン内の隠し部屋に転生させるのが精一杯でした。申し訳ありません』


「なるほど、それでこんな殺風景な部屋なのか」


 今俺がいる場所は、固い土で出来た小さい部屋だ。ここで目が覚めた時は一体何が起きたのかと思ったが、手紙のおかげで少しづつ情報が整理出来ている。


『お詫びと言う訳ではありませんが、この世界の道案内役としてお供を派遣します。言うなればあなたのヒロインです。隠し部屋の外に出たらそれを合図に合流する予定ですので、末永くよろしくお願い致します。』


「ヒロイン!?マジかよ、女神様公認のヒロインか~。どんな子なんだろう」


 さっきまでの不安や混乱が嘘のように舞い上がる俺。やはり俺も男。こう言う話には弱いと言う事か。


『では次に、この世界での基本的な事のレクチャーになります。まずはステータスの確認です。ソルト様もよく遊んでいるゲームのように、ステータスを見たいと念じてみて下さい』


 あれ?なんで女神様は俺がゲームをよくやる事を知って……まあいいか、今はここに書いてある通りにしよう。

 頭の中でステータスを見たいと念じると、目の前にステータス画面が浮かび上がる。


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 ソルト ♂ 種族:ヒューマン

 職業:スキンヘッダー Lv1

 『スキンヘッド中スキル効果100億倍』


 HP 50/50


 装備品

 ・普段着

 ・いつもの靴


 所持スキル

 □パッシブスキル

 ・【清潔感】:状態異常耐性が上がる。

 ・【ダイヤヘッド】:ダメージを頭に受けた時、そのダメージをカットする。

  ※追加効果:相手が敵モンスターである時、ダメージを反射する。


 □アクティブスキル

 ・【ウォッシュルーム召喚】:身だしなみを整える道具が揃った空間を呼び出す。

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「本当にゲームみたいだ!……って、職業スキンヘッダー?」


 職業欄がおかしい。なんだスキンヘッダーって。100億倍も間違いじゃないのかよ!……きっと何か説明があると信じて手紙を読み進める。


『あなたの前に自分のステータスが表示されたはずです。他人のステータスも、見たいと思えば簡易的な物を見れますよ。次にスキルの説明です。パッシブスキルとは、常に発動しているスキルです。もう1つのアクティブスキルは、頭の中で使用したいスキル名を念じれば発動出来るタイプのスキルで、声に出しても発動出来ますからお好みで使い分けてください。また、モンスターを倒せば経験値が手に入り、レベルが上がってスキルが増えますので頑張ってくださいね!』


 あ、これスキンヘッダーの説明無さそう。


『ヒロインと合流するまでの間は1人で心細いかと思われますが、特殊能力とスキルを駆使すればあなたはこの世界最強の存在です。存分にその力をお使いください。では勇者ソルト様、旅のご武運をお祈りしております』


「え、もう始まるの?女神様、嘘だよな?まだなんか書いてあるよな!?」


『追伸。転生前のあなたとマッチングアプリで会う約束をしていたのは私です』


「女神ぃー!?」


 かくして、とてつもなく余計な情報と共に俺の冒険の旅が幕を開けた。



◇◇◇◇◇


 隠し部屋から出るとそこは入り組んだ洞窟のような場所。まさしくダンジョンと言った感じで道は薄暗く、光る苔のような物が辺り一面に生えているおかげで、何とか周りが見えるような状況だ。

 現状での問題は、俺には武器が無いと言う事。そして戦闘に使えそうな物は防御型スキルの【ダイヤヘッド】だけ。女神は俺を世界最強と言っていたが、100億倍が本当なのか分からない状態では戦闘面はかなり心許ない。アクティブスキルの【ウォッシュルーム召喚】は多分戦闘用じゃなくて、セーブ部屋のような物だろうから後で試そう。まずはヒロインと会わなくてはならないからな。


「モンスターってどんなやつらなんだ?」


 正直に言うとかなりビビっている。ゲームで画面越しにキャラを操作するのとはまるっきり違う。俺は今、自分の足でダンジョンと言う危険地帯を歩いているのだ。

 そしてついに、その時は来た。


「ゲギャギャ!」


「うわっ出た!!」


 棍棒を持った小鬼のようなモンスターが現れ、その名前が表示される。


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 ゴブリンエリート Lv32

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「ゴブリン?なんかレベル高くないか?」


 俺のレベルは1。この世界の基準は分からないが、相手との差がかなりあるのは確かだろう。でもそれに怖気づいていては何も始まらない。今出来る事をしよう。頭であいつの攻撃を受けて【ダイヤヘッド】の反射を発動させるんだ。


「ギャギャー!」


 ゴブリンが俺を獲物と定めて、手に持った棍棒で襲い掛かってくる。それに合わせて俺は頭を相手に向けた。


「ここだ!」


「ギャp──」


 棍棒が俺の頭に触れた瞬間、ゴブリンは幻のように跡形も無く消えた。


「え……倒せたのか?……助かったぁー!なんだ結構やれるなスキンヘッダー!」


 不安だったが上手く行ったらしい。俺にはダメージどころか攻撃の衝撃すらなかった。ダメージをカットする効果も、ダメージをモンスターに反射する効果もしっかり100億倍になっているようだ。

 スキンヘッダーはこうして敵モンスター達の攻撃を頭で受けて、ダメージを反射して倒す職業なのか?つまり、テクニカルなカウンター型だからスキル効果100億倍も許されているのだろうか。


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 ガイドテキスト

『レベルアップしました。パッシブスキル【オールフォーヘッド】を習得しました』

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 レベルアップはメッセージ形式で教えてくれるのか。スキルまで手に入れたみたいだし効果を見てみよう。


 □パッシブスキル

 ・【オールフォーヘッド】:自分へのダメージは全て頭で受けた事になる。


「……そう来たかー」


 ダンジョン攻略がヌルゲーになった瞬間だった。



◇◇◇◇◇


 新たなスキルを習得した俺は、ダンジョンの中を無警戒で歩く。


「ガオオオn──」


「ピk──」


「ゲギャギb──」


 頭で敵モンスターのダメージを反射する【ダイヤヘッド】と全身が頭判定になる【オールフォーヘッド】のコンボにより、歩いているだけで襲ってきたモンスター達が勝手に消し飛んで行くからだ。


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 ガイドテキスト

『レベルアップしました。レベルアップしました。レベルア……』

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 モンスターは塵も残さずに消滅していくが、レベルアップが連続で表示されているので倒した分の経験値は入るようだ。もはや最初の戦闘でビビッていたのが嘘のように俺はズカズカと進んでいく。


「最初の緊張感を返して欲しい……」


 もう戻らないそれに思いを馳せながら、女神の言うヒロインを探して入り組んだ道を進む。手紙には『隠し部屋の外に出たら』となっていたが、どこで合流するかまでは書いてなかった。


「しまったな。これは部屋の外で動かずに待ってた方が良かったかも」


 今更気が付いてももう遅いと思いつつ歩いていると、目の前の曲がり角の方からカツンカツンと足音が聞こえる。どうせ警戒する必要は無いのでそのまま進み、俺は足音の主とぶつかった。


「きゃあ!」


「えっ?」


 なんとぶつかって倒れた足音の主はモンスターでは無く、金髪ロングヘアで魔法使いのような服を着た女性だった。綺麗な人だ……もしかしてこの子がヒロイン?


「ごめん!大丈夫?」


 俺は尻餅をついてしまった女性を慌てて助け起こす。


「はい、ありがとうございます……あ!」


 すると女性は俺の方を見てぱあっと笑顔になり、こちらに挨拶をしてきた。


「ずっとお会いしたかったです!私はあなたの旅のお供をしますルイーナと申します。末永くよろしくお願い致しますね、勇者様!」


「うん、こちらこそよろし……く?」


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 ルイーナ ♀ 種族:神

 職業:女神Lv1


 HP 1/99999

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「え、女神!?」


 こうして俺は、転生前にマッチングアプリで出会う予定だった女神と、異世界で顔合わせしたのだった。

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