おかえりごはん

翡翠

序章 食堂のはじまり


田中百合子は、静かな町の一角にひっそりと佇む商店街を見渡しながら、


心の中で新たな挑戦を考えていた。


夫が亡くなり、子どもたちも独立して、


それなりに満ち足りた人生だったが、どこか物足りなさがあった。


かつては家族のために毎日料理を作り、忙しい日々を過ごしていたが、


今はその時間もなく、静かである。


彼女の心には、ぽっかりと穴が空いたような感覚があった。



そんな日々の中で、ふと耳にした話が、百合子の心を揺さぶった。


商店街の人の話では、近くの小学校で家庭の事情で十分な食事が取れない子どもたちがいるというのだ。


特に、シングルマザーや共働きの家庭では、子どもたちが一人で過ごす時間が増え、


十分に食事を取れないまま学校に通うことも少なくないという。


その話を聞いた瞬間、百合子の中で何かが動き始めた。



「私にも、まだ出来ることがあるんじゃないか」



百合子はそう思った。


これまで、家族のために料理を作り、温かい食卓を守ってきた。


だが今、その腕前をもっと多くの人のために使うことが出来るのではないかと感じた。


彼女は、さっそく準備に取り掛かることにした。

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