宴席の嫌いな私

沙羅双樹

第1話 宴席の嫌いな私

私の名前は由紀。40代を迎えた今でも、宴席が苦手だ。飲み会、パーティ、宴会。どれも私を憂鬱にさせる言葉だ。お酒や食べ物を前に、長時間じっとしていることがどうしても苦痛で、心の中では「早く終わらないかな」と念じている。


ある金曜日の夜、会社の同僚たちが企画した飲み会に参加することになった。みんなの期待を裏切りたくなかったからだ。会場に着くと、明るい照明と大きな声での笑い声が耳に入ってくる。少し緊張しながら席についた。


隣に座ったのは、同じく40代の美香さんだった。彼女は笑顔で「由紀、何か食べない?」と声をかけてくれた。私は「少しだけ」と言いながら、皿に手を伸ばしたが、気持ちは沈んだままだった。


宴会が始まると、周りは次々と杯を重ねていく。私はお酒が苦手なので、ジュースを頼んだ。周囲の熱気に圧倒されながら、何とか会話に参加するも、心のどこかで早く終わってほしいと願っていた。


「由紀、飲まないの?」と同僚の田中がからかうように言った。私は笑って「今日は運転だから」と答えたが、心の中では「どうか、もう少し静かにしてほしい」と叫んでいた。


その時、美香さんが隣でさっと立ち上がった。「ちょっとトイレに行ってくるね」と言い、会場を後にした。しばらくして彼女は戻ってきたが、目が少し輝いているように見えた。


「実は、トイレで本を読んでたの」と彼女が冗談交じりに言うと、私は思わず笑ってしまった。彼女の言葉に、自分だけじゃないんだと少し安心した。


宴会は続き、周りはますます盛り上がっていく。私も周囲の雰囲気に合わせようと努力するが、どこか違和感が消えない。ふと、思い出した。以前、ネットで読んだ言葉が頭に浮かんだ。「あなたがいやな思いをするのなら、向こうはあなたを嫌っているってことなんだ」。


その言葉が心の中で響いた。そうだ、無理にここにいる必要はない。自分を大切にするために、他の選択肢があることを思い出した。


宴席の中で立ち上がり、周囲の視線を気にしながらも、私は一歩ずつ出口に向かって歩いた。会場のざわめきが遠ざかり、心が軽くなるのを感じた。外に出ると、冷たい夜風が頬を撫で、開放感が広がっていく。


帰り道、私はこれからの自分の選択肢を考えた。次の宴席には無理に参加しなくてもいい。自分に合った人たちと過ごすことが、何よりも大切だと改めて思った。


これからは、無理をしないで、自分を大切にする生き方を選んでいこう。自分のペースで過ごせる時間を大切にしながら、少しずつ自分を受け入れていくことができるのだと、心の中で決意した。

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宴席の嫌いな私 沙羅双樹 @kamyu_winter

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