白昼夢

@SWM19

第1話 産む意味

人間が子供を産む理由は自己満足である。

子供が欲しいから。

子供を産むことが普通だから。

人間としての本能がそうさせるのか、はたまた自分の親に対する愛着を子供に求めているのか。親のしてくれたように子育てをしたいとか、パートナーを束縛するためとか、親族に示しがつかないからとか。産まれた子供を第一に考えた答えが返ってきたことはない。


もちろん、できちゃった婚にそれっぽい理由をつけて綺麗事にするのはわかる。親族や世間に、中出ししたらできちゃいましたなんて言えるわけもないだろう。


しばらく前までは労働力や相続のために子供を産んでいたという。それなら確かに納得できる。子供の『供』は供えるって意味だから、生贄だったり、信仰に使うためっていうのもありそうだ。だがそれは神に子供を供えることで神の怒りを鎮められるという宗教的な意味や幻想を抱いた人間が苦し紛れに編み出した愚かな慣習なので、これもまたつまるところ己のための子作りということなのかもしれない。

しかし碌な家名も財産もないのに、自分一人で満足食っていけるようになった現代人にとって、子供は贅沢品のように思えるのはなんでだろうな。


子供の幸せな人生を願って子供を作る人なんているのだろうか。子供に幸せな人生を歩んで欲しいから子供を作るなんてのも、結局は幸せな人生を歩んでいる子供が欲しいという稚拙な承認欲求だろう。


私には子供が欲しいと思う欲がない。

だから子供を産み育てるということに対する明確な理由が欲しいのだが、なかなか見つからない。


人間には食欲や睡眠欲のように子供を欲する欲があるのだろうか。あぁ、あるじゃないか性欲が。

性欲の果てにあるものが子供なのだろう。

文明人に成り上がった人類にも、まだまだ猿だったころの本能を抑える機能が備わっていないらしい。

よって人間が子供を産む理由は、性欲を十分に満たした結果なのだ。要するにただの自己満足なのである。


さて、そんなことを考えながらトイレでクソをするクソみたいな私は二十七歳のサラリーマン。

新卒で一端の大企業に就職し、一端のサラリーマンをやっている。残業三昧で今期は2人も鬱病で休職者が出た職場だが、給料は良いから辞められない。

半年前には付き合っている彼女と結婚し、今は結婚式準備に大忙しである。


そんな私が人並みの感覚を取り戻すことができたのは、ほんのは数年前のことであり、かつては希死念慮に苛まれ、カルトの教義に囚われ、泥中を彷徨い、途方に暮れるような時間の中で精神世界に溺れ苦しむ少年だった。私はその成れの果てだ。


この物語は少年が私に至るまでの二十数年間を赤裸々に語る物語であり、カルト宗教や愛着障害に悩む子供が量産されることがこれ以上増えることがないことを願う啓蒙活動でもある。

さて何から語ろうか。

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