第50話 ラブホで配信!?

 あの顔は間違いない。見間違るはずがない。



「こ、小向さん……だよね?」



 俺は恐る恐る声を掛けた。

 すると、小向さんはビクッと反応を示しつつも、こちらを向いた。



「え……。キョ、キョウくんなの……?」

「やっぱり、小向さんだ」



 俺を認識する小向さんは、やがてワナワナと震えて顔を真っ赤にしていた。



「あー!!」



 急に叫ぶものだから、俺も倉片さんもビビった。なんちゅう声量だ。

 俺は小向さんを落ち着かせ、事情を聞いた。


 なぜ、ラブホの前でウロウロしているのか?



「どうしたのさ」

「そ、それは……えっと……」



 隣の倉片さんをチラチラ見て言いにくそうだ。どうやら、本当に言い辛いことらしい。ので、俺はいったん倉片さんから離れ、小向さんから事情を聞くことにした。


 耳打ちするようにして小声で改めて聞いた。



「こんなラブホの前で……彼氏とそういう予定が?」

「そ、そんなのいないよ!」


「いないんだ。意外だね」


「う、うん」


「じゃあ、なんで?」



 更に顔を赤くする小向さん。

 いったい、どういう反応なんだそれ。



「その、えっと……実は」



 ゴニョゴニョと耳打ちされ、俺はソワソワっとしながらも、その話に驚いた。……なんだって!?


 小向さん、ラブホに一人で入って……コスプレをして、えっちなライブ配信をしているぅ!?


 な、なんだってー!?



「え。小向さんってテックトックのインフルエンサーでは?」

「そっちもやっているんだけどね。ただ、その……昔からやってたことだから辞められなくて」



 そういうことだったのか。テックトックのインフルエンサーになる前は、そういうエロ配信で稼いでいたと。

 しかも、まだ稼ぎがいいものだから両立していたわけだ。


 意外すぎるな。


 こんな可愛い大学生女子がエロ配信とは……信じられんな。



「ラブホで配信してるんだ?」

「うん。その、一人暮らしだから、声とか漏れちゃうし……その、恥ずかしいから」



 どちらにせよ、ラブホをウロウロしているのも恥ずかしいと思うが。



「だからって、ここにいたら余計に危ないんじゃ?」

「うん、いつもこうなんだ。入るのに勇気がいて……あ! そうだ。キョウくん一緒に入ってよ!」


「え!?」



 ま、まさか誘われるとは!

 そりゃ嬉しいけどさ。だけど、俺には倉片さんがいる。放置はできないし、そんなつもりもない。



「どう、かな」

「すまん。見ての通り、彼女がいるんだ」


「彼女なの!?」


 小向さんは非常に驚いていた。そうだった、説明していなかった。

 倉片さんとは同じ職場で働く同僚でありながらも、恋人同士であることを。


 少し落ち込む素振りを見せるものの、理解を示してくれた。



「――というわけなんだ」

「そっかぁ。キョウくんに彼女が。私、結構狙っていたんだけどなぁ……」


「そうなの?」


「うん。キョウくんのこと嫌いじゃないし」



 そう言われると照れるというか、意外だった。小向さんが俺のことをそんな風に思ってくれていたなんて。



「それか、俺の職場でどうです? そういう動画で稼いでいる会社なんで」

「あー、なんかそんなこと前に言っていたね。興味あるかも!」


「では、また連絡しますよ」


「うん。今晩はがんばって一人で入るね……!」


 決心がついたのか小向さんは、ラブホの中へ突撃していた。本当なんだなぁ。

 ぼうっと突っ立っていると倉片さんが俺の背中を指で突いた。



「ねえねえ、なにを話していたの?」

「あ、えっと……」



 こりゃ具体的に説明しないと誤解を受けるな。

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