第49話 なぜキミがラブホに!

 美味すぎるオムライスを一粒も残さず完食。

 満腹の中でメイド喫茶を出た。

 倉片さんは幸せそうな表情をずっと浮かべていた。よかった。


 一安心しながらも、夜道を歩く。



「メイド喫茶よかったね」

「うん、キョウくんが利用していたのは意外だったけどね」


「まあ……いろんなお店を利用している方だとは思う」



 メイド喫茶だけではない。猫カフェや鳥カフェ。果ては爬虫類カフェなんかも利用したことがあった。

 そして、あらゆる風俗店も。



「さすがだね。えっちなお店も?」



 見透かされていたか。



「そ、そりゃね」

「そっかそっか。でも、もう使わないでね」

「もちろんさ。今は倉片さんがいるから必要ないからね」



 そんな話をしながら歩いていると、見知ったような顔をすれ違い。そいつに話しかけられた。



「あれ、キョウじゃね?」

「……ん? あ」



 そこには同じ大学の、同じ写真・動画サークルに所属する『村坂むらさか』がいた。爽やか系のイケメンでモテているが、彼自身が女性が苦手らしい。



「へえ、女と一緒とはね。し、しかもめちゃくちゃ可愛いじゃん……!」



 俺の隣にいる倉片さんを見て、一気に緊張で固まる村坂。やっぱり、女性が苦手なんだな。



「彼女は倉片さん。高校の時の同級生で……いろいろ縁があって付き合っている」

「そうだったのか! キョウ、お前やるな! こんな美人と!」



 ハイテンションで村坂は、俺の背中をバンと叩く。祝福は嬉しいけど、痛いって。

 しかし、こんなところで村坂と出会うとはな。



「村坂は帰るところか?」

「いや……」


 村坂は神妙な顔をして、どうしたものかと困っていた。



「どうした?」

「織田だよ。ほら、サークルにいた外国人の女子」


「え! 織田がどうした?」


「逮捕されたって聞いてね。まあ、ちょっと面会へ行こうかなと」

「そうだったのか。つか、村坂は……織田が女だって気づいていたのか」

「本人から聞いたからね」



 なるほど、村坂だけには話していたんだな。

 しかし、まさか織田に面会しに行くとは……。



「会ってどうする? アイツは、イタリア人でマフィアの娘らしいぞ」

「らしいな」


「らしいなって知っていたのか?」


「ああ。アイツは全部俺に話してくれたよ。……女性嫌いな俺だが、アイツだけは普通に接することができた」



 そうか、村坂自身も最初は織田が男であると認識していたらしい。だから、普通に話すこともできたし、裏事情も知っていただけに妙な情が移ったようだ。

 だが、それはあまりにも危険だ。



「やめておけ。マフィアの娘だぞ」

「そうは思えないんだよな」

「え?」


「それすらも俺にはウソに思えるんだ」

「……ったく。分かったよ、話を聞くだけにしておけよ」

「おう」


 現在の織田の状況も気になると言えば気になる。それに、アイツはまだ闇バイトを雇っている可能性もある。

 その辺りの情報を引き出せれば、こっちも防衛しやすいしな。


 村坂は留置所へ向かった。



 ◆



 俺と倉片さんは、ラブホへ。

 今晩は無難に近場のホテルにした。


 入ろうとすると、またも見知った顔が横切っていた。……え。



 ええッ!?



 あ、あれは……同じサークルの……!



「ど、どうしたの、キョウくん? まるで幽霊を見たような顔をしているよ?」

「あ、ああ……。今そこにいる女性なんだけど」


「あ~、あの人」



 小向さんだァ!!


 まさか、ラブホにひとりで…………?



 そういえば、彼女はテックトックのインフルエンサーだな。まさか、なにか配信をする為に……? さすがにエロはBANされるよなぁ……?



 声を掛けてみるか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る