第16話 事件は忍足
部屋を片付けた後(正確には直す)俺たちは夕食を取るため本館にある食堂へ向かっていた。
「あの子、一人部屋で留守番できるかしら」
「カイラクがか?無理だろうな」
「じゃあ置いてきちゃダメでしょ」
「晩御飯くらいゆったりと取らせてくれ...」
食堂はドーム状に作られており天井部からは蝋燭の入ったランタンが垂れ下がっていた。
「雰囲気あるな」
「ああ。だが人が大勢だな...」
皆考えていることは同じでお風呂上がりの後を狙って食事をとっているようだ。
かといってそれから少し時間は空いたはずなのに今だに混んでいる。
「まぁ無理もないか。6クラスの人数がここで食事を摂るんだ。」
「そうね。気長に待ちましょうか」
空いている席がないかと周りに視線を回していると顔色が悪いエミュが見えていた。
明らかに体調が優れていなさそうなので思わず近寄り話しかける。
「大丈夫か?」
「...え、えぇ。貴方達はこれから食事?」
「ああ。だが席がなくて。」
「私達もう食べ終わるからここいいよ」
隣に座っていた副委員長は彼女のあまり手付かずのさらに目を落とし
「委員長全然食べてないけど大丈夫?」
「いいの。あまりお腹減ってないから」
彼女達は俺たちに席を譲り足早に去っていく。
「大丈夫なのかしら彼女」
「どうだろうな。何か考えてるんだろ?ウル」
「...さぁな。」
先に一人食事を済ませた俺は彼女を探し歩き回るが見当たらない。
既に部屋に戻ってしまったのだろうか。
体調が悪い場合それが正解ではあるが...
だが彼女の様子からは思い詰まった様子が伺えた。
ならばあいつに会ってみるのも手だな。
心理的にゆするのに彼女は最適だからな。そしてその弱点を生み出した責任は俺にある。
俺は1Bのクラスが止まっている棟の前であいつが来るのをただひたすら待ち続ける。
やがて時計の長針が10時を指し示すころに彼女は降りてきた。
「貴方ストーカーなの?」
「とぼけるつもりか?」
「とぼけるも何もしてないわよ。」
「エミュ、彼女に何か話したよな」
「会話はしたわね。」
やはりな。
「彼女を精神的にゆすって1Aを負けに追い込もうとしているのかもしれないが無駄だ。」
「ゆすってなんかないわ。現実を教えてあげただけ」
「その教え方が姑息なんだよ。『もし負ければ貴女のせいでクラスメイトのウルが転校しちゃう』とかなんとか言ったんだろ」
「んーほぼほぼ正解ね。ただ違うのは彼女もその賭けに乗ったってことよ」
その賭けに乗った?まさか
「彼女も負ければ転校するとしたのか。勝ってもあいつにメリットはないのに。」
「煽ったらプライドが傷つけられたみたいな。メリットなんか要らないみたいだわ」
「勝利に貪欲だな。悪くない」
「ウサギを狩る時でさえ虎は本気を出すから」
一晩経てば彼女の精神状態は治るだろうか。いやそうとは思えないな。
自分の理想像を追い求めている彼女がここの学校から去るなんていうのは夢を捨てるのと同じだ。
優秀な生徒でいたいならばこの学校に残る必要がある。
ミネルバ・ハニ。彼女は中々のやり手らしい。
一瞬にしてエミュの弱点を突いて見せた。
それに駆け引きも彼女にはメリットがないのにも関わらず上手く口車に乗せてみせた。あの冷静そうな彼女をだ。
考え方をしながら歩いているといつの間にか本館の方へ歩き進めてしまったようだ。
人間は不意を突かれてしまう生き物である。
窓ガラスが割れる音が響き渡り悲鳴が響き渡る。
あれは本館の食堂からだろう。
急いで駆けつけるとそこには血溜まりと脱がされただろう衣服たちが乱雑に散らばっていた。
「わ、忘れ物をして、それで開いてたから入ったら裸の女性を抱えた何かがいて」
取り調べを受けているのは1Cの生徒のようだ。
俺はあの後、すぐさま教師に報告しに行ったのだが現場の近くにいたということで俺までもが取り調べを受けていた。
その現場にいたのは俺と1Cの人だけである。
「忘れ物なんか次の日で良かったのでは?」
「そ、そうなんですけど、それが杖だったんで、せっかく見つけた良い杖だったから」
彼女は嗚咽を漏らしながら一所懸命に弁解をする。
「とりあえず今日はもう休みなさい。また明日、話の続きがあるから」
「は、は、い」
彼女には血痕も何も付いていなかったことからただ運の悪い人なのだろう。トラウマのような景色に教師からの疑いの目は堪える。
「次、君だよ。来なさい」
見たことのない教師に部屋に呼ばれ行くと木製の机がただあるだけの質素な部屋だった。
「なぜ事件現場の近くに君はいたんだい?」
「とあるクラスメイトと会話した後、自分の部屋に戻るつもりが本館に来ていました。」
「何を言ってるんだい?」
自分でもおかしいと思うがこれが事実だ。
「そのクラスメイトは?」
「1Bです。」
「君は...1Aか」
手元にある生徒資料にペンで丸をつけている。
「それならば本館側にわざわざ行く必要はないだろう。真反対では?」
「その子との会話の内容があまりにも考えさせられるものだったので」
「...君怪しいって思われてもしょうがないよね。でも君が最初の通報者なのか。」
廊下から走る音と「すみませんすみません」という言葉が近づいてくる音が聞こえてくる。
そして次に聞こえる音は勢いよく扉を開ける音だった。
「すみません!か、彼と直前までいたものです」
嘘と同時に現れたのはエミュだった。
「ん?でも彼は1Bの生徒にあったって...」
「多分聞き間違いだと思います。」
「じゃあ君は彼と何を話していたのかい?」
「それは...言えません。」
「どうしてだい?」
「彼を傷つけてしまうかもだから」
「それは彼を上の空にするほどのものかい?」
彼女は賢いな。具体的な話を避けつつ状況を収集している。もし間違えた答えをしても逃げ道をしっかりと作っているのも流石だ。
「わ、私が彼を振ったからです」
「じゃあ彼は君に振られたショックで本館に辿り着いたってことかい?」
「そうだと思います。そしてその直前まで私は彼と絶対にいました」
「んー。証人もいるのか。とりあえず帰っていいよ」
彼女に助けられ、外に出る。
「助かった。ありがとう」
「良いの。もうこれ以上クラスメイトを失いたくない」
「これ以上って」
「うん。消えた女性は私達のクラスメイト」
犯人はどうやらこの学年に潜んでいるらしい。そして俺に対して攻撃してきている。
わざと俺が通るタイミングで事件を犯したのだろう。
「エミュ、聞いたぞ。ハニから」
「あ、」
「必ず勝つから安心しろ。不安に押し潰されるな。受けたものは倍にして返せ。それが勝者の資格だ」
魔法協会の隠し子 みゃんびゃん麺 @ranmyan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔法協会の隠し子の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます