第5話 午前2時事件

豪快に学食を食べる彼女を横目にライトアップされた校内に視点を移す。


暖色系の明かりで彩られた校内はまるで魔法がかかった場所のように幻想的である。


「美味しかった。満足」

「もう食べたのか...30秒経ったか?」

「こら。女の子にそゆこと聞かないで」


難しい。

アンデットとしてか、女性として、はたまた幼馴染として扱えばいいのか悩む。


「なんか眠たくなっちゃった」

「そろそろ帰るか。他に寄りたいところとかはないか?」

「ないかなー。あとは夢が待ってる〜」


結局、どんな生き物も夢を見る物なんだな。

俺はどんな夢を見るのだろうか。そして今、どんな夢を抱いているのだろうか。自分でも分かっていない。


大きな正門の前では人だかりができていた。


「みんな帰るタイミングは同じか。人が多いな。裏手の方から帰るか?」

「りょ」


看板に従いながら複雑な小道を進み、小さな門から出ようとしたとき、背後から甘い匂いがやってくる。


「ん?何かの匂い」

「なんだろうな。お菓子か?それとも...なん」


突然体に力が入らなくなる。そして眠気が獣のように襲ってきて、なす術のない俺は横にいるメアだけでも起こそうとするが手に力が入らない。


彼女はひと足先に目を閉じ、道端に倒れ、俺もそれを確認した後、深い眠りにつくことになった。



顔に何か当たる感触で目を覚ます。どうやら当たっていたのは夜風になびかれた草だった。


隣ではまだメアは眠っている。


「起きろ。風邪引くぞ」

「ん?ここどこ?」


辺りを確認するにあたって気絶する前の場所から移動はしていないようだ。

次に何か奪われていないか、ポケットに手を入れて確認するがお金も、家の鍵も取られていない。


「何か盗られたりしていないか?」

「私は何にも盗られてない」


何故俺たちは眠ってしまったんだ?周囲に原因となるような物は見受けられない。

意図的に眠らされた、と考えるべきだろうが何のために?


時計台を見るとちょうど午前2時前を長針が指し示していた。


「こんな場所にいるのは良くないな。出ようってあ、」

「門が閉まっちゃってるね」

「なら正門の方から行こう。今の時間にまで人だかりはできていないだろう。」


先ほどとは違い薄暗い道を進みながら正門を目指していく。


明かりはほとんど消え、校内は俺と彼女だけのようだった。


「暗いな。」

「学校が始まってたらまだ明かりはついてるはずなんだけどね。」

「こんな遅い時間もか?」

「魔法研究とかなんやらで泊まり込む人がいるくらいだもん。」


学術も底が見えない深淵のようなものだ。全てを理解しようとしなければならないが、できない。だからこそ子孫を残していくのだろうな。


正門も閉まっており、飛び越えれそうにない。


「誰かいないか探してみようよ」

「そうだな。誰かいるとは思えないが...」


物陰から「ゴソゴソッ」っと音がなる。


「リスか?」

「音の大きさ的に違うと思う。そうだね。人ぐらいの大きさの生き物かな」


音が鳴っている茂みの方に向かうと音が鳴り止み、見渡しても何も見つからない。


「気味が悪いな」

「わたしよりも?」

「返しづらい自虐ジョークはよしてくれ。本当に返答に困る。笑ったら良くないだろ」


本格的に良くない方向に進んできた。

出れない状況に奇妙な音。それに時刻が時刻だ。何が出ても不思議じゃない。


「そうだ。普段なら学生寮の管理人さんがいるはずだけど...春休みだからいないかな。」

「今はそれしか行く宛がないしな。とりあえず行ってみよう」



学生寮は大きく、何棟にも別れていた。

近くに小屋があり、そこが管理人室らしい。


「ドンドンドン!夜中にすいませーん」

「ドア叩く力が強い。少し凹んじゃってるじゃん」

「いないのかな?」

「出づらいだろ。この時間にいきなりドア強く叩かれたら」


明かりもついていないし、最初からいなさそうだ。


時計台が午前2時を示し、鐘がなる。


「こんな時間に鐘を鳴らすのか?」

「わかんない。そんなことは聞いてないけど...ってあれ?時計台の下に誰かいない?」


目を凝らしてよく見てみると、フードを被った人物が中に入ろうとしていた。


「あれが管理人かな?」

「かもしれない。じゃなきゃわざわざ時計台の内部に入らないしな。急ごう」


急いでそこに向かい、先ほどの人物がいた場所につくともう既に中に入っているようだ。


「鍵は...かかっていないのか」

「入っちゃお。後で説明すればいいし」


彼女に乗せられ、中に入ると大きな歯車や小さな歯車がこんな時間帯にも関わらず、せっせと働いている。


「上を見てもいないな。」

「あそこに扉がある。部屋でもあるのかな?」

「メンテナス室かもしれない。ここまで来たんだ行ってみよう。」


扉は古い木造で今にも壊れそうだった。


「本当にここにいると良いんだが...」

「おっじゃましまーす」


彼女が勢いよく扉を開けると埃が舞い散る。


「暗いな。誰もいないのか?」


その言葉を聞いて反応するかのように目の前で蝋燭が灯る。

そしてその灯に照らされたのは



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