第53話 帰ってきた勇者候補(笑)



「お前、ハリボッテか? オレに言いがかりで決闘吹っ掛けてきて一瞬で負けたあの?」



「……ださ」



「ダサいにゃ」



「ふう、ふう……ね、捏造は止めろ! 勝手に審判に負けたことにされたんだ!」



「いやお前、気失ってたじゃん……」



 オレがカマドの街へやってきた初日にギルド会館で絡んできたハリボッテ。

……いや、一応オレから絡みにいったんだっけか?

たしか、商業ギルドの買取りで受付のお姉さんと揉めてたから声かけたんだ。



「ハリボッテ、お前……なんかめちゃめちゃ太ってない?」



「ふう、ふう……ガ、ガタイが良くなってパワーアップしたと言ってもらおうか!」



 さっき声をかけられたとき、オレがハリボッテだと気付けなかった理由。

前に戦ったときの彼は、一応装備品だけはそれなりのものを付けた中肉中背で老け顔の男だったのだが、今の彼は身長や身体の大きさが二倍近く大きくなって、まるでオークのような見た目になっていた。

サイズが合わなくなってしまったのか、前に装備していた鎧も付けていない。



「ふ、ふふふ……卑怯者ホムラ! 僕はあの日から身体を鍛え、こうして貴様の前に戻ってきたぞ!」



「いや、別に戻ってこなくていいけど……」



「ホムラ、こいつもしかして魔王軍の手下にゃ?」



「……ブタブタ族」



「ぼ、僕をあんな醜い獣人と一緒にするなああああああ!!」



 あ、ブタブタ族っていう種族は存在するんだ。



「悪いが、オレは今カマドの街を出たところなんだ。ギルド会館での決闘は受け付けないぜ」



「ふん、そんなのはどうでもいい。街の外に出てしまえば、ふう、ふう……か、関係ないからな……!!」



「ホムラ、こいつ誰も見てないからってここでホムラを倒す気にゃ!」



「そうみたいだな……それにしても、この短期間でどうやってそんな身体になったんだ?」



 普通に考えたら、ひと月やふた月程度で身体の大きさが二倍になったりしないだろう。

それに身長まで倍近くになってるのはさすがに変だ。

ボディビルダーもびっくりのビフォーアフターだな。



「ふっふふふ! こ、これを使ったのさ……!!」



 そう言ってハリボッテが懐から取り出したのは、小瓶に入った緑色の液体だった。

なんだあれ、回復ポーションとかそういう系か……?



「……そ、それは」



「チユ、知ってるのか?」



「……あれは、〝ケミカロイドポーション〟のなかま、だと思う」



「ケミカロイドポーション?」



「……みどりの魔石で作る、栄養ポーション。野菜とか、牛さんとか、豚さんに使う」



「農業用の成長促進剤ってやつか……?」



「それを自分で飲んじゃったにゃ!?」



 チユの説明によると、ハリボッテが持っているのは『ケミカロイドポーション』という、生き物の成長を早める緑の魔石や魔結晶から抽出、凝縮した魔力を材料に作られたもので、これを植物や動物に摂取させると普通ではありえない速度で成長し、サイズも大きくなるらしい。



 早く育って大きくなるということで農業ギルドではよく使われるポーションではあるのだが、魔力濃度が高いポーションほど毒性が高く、摂取した家畜の寿命は一気に短くなり、解体した肉や収穫した野菜はしばらく毒を抜く作業をしないと食べられないのだとか。



「……ケミカロイドポーションの野菜、おいしくない」



「質より量ってことか。でも、そんなものを人間が使ったら……」



「このオークさんは死にかけってことにゃ……?」



「オークって言うなあ! ゲホッ、ゴホッ! ふう、ふう……」



 さっきからやけに息切れしてるなって思ってたけど、これもケミカロイドポーションの影響なのか?

薬で筋肉を大きくしたボディビルダーはすぐに息切れするようになると聞くが……



「ハリボッテ、お前……死ぬぞ」



「ふう、ふう……ぼ、僕は死なない! ここでお前を倒して勇者になるんだあああああ!!」



「こいつヤバいにゃ!」



「ヤバいのは最初からだったけどな……っ!!」



 未来の勇者候補 ケミカロイダー・ハリボッテが 勝負を しかけてきた !!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る