炎神龍の愛弟子~隠しダンジョンに転生した少年、裏ボスに育てられ最強の冒険者になる~

ふぃる汰@単行本発売中

1章 灼熱の街カマド 編

第1話 操作ミスでダンジョン転生!?

 



 ……。



 …………。



「……っ!! こ、ここは……? オレ、生きてるか……?」



 目が覚めると真っ白な天井が見える。

病院に運ばれたのだろうか、それとも救急車の中か。



「あの野郎、ザクザク刺しやがって……」



 〝野良猫を襲って虐待している不審者がいる〟



 近所で野良猫の不審死が相次いで発見されたと少し前から噂になっていた。

オレが通う高校でも注意喚起が出されて『許せねえな……』と思いながら帰宅している途中、ふと気になって普段は入ることのない裏路地を通って帰ることにした。

そこでオレは、今まさに黒い子猫に向かってカッターを振り上げている浮浪者のような男を見つけてしまった。



「痛みは感じないけど、身体が動かせない……麻酔でも打たれてるのかな」



 男が子猫を殺そうとしているのを見た瞬間、オレは叫びながら男にタックルをかまして子猫を助けた。

……そこまでは良かったんだけど、今度は逆上した男がオレに襲いかかってきた。

オレは足を切られ、子猫を抱えてうずくまり、その間も背中をカッターで刺されまくった……で、気が付いたら意識が飛んで……



「あの子は無事に逃げられたのかな……」



 というかあの男は捕まったのだろうか。それともまだどこかで……



「出来れば刑務所なんかよりも地獄に落ちてくれていれば良いんだけどな……」



「彼なら等活地獄の刀輪処で毎日ザクザクだから安心してください」



「そうか、それなら安心……え、なに? とうかつじごく? とうりんしょ?」



「刀で動物を殺した罪人が行くところです。地上からは猛火、天井からは熱鉄の雨が彼を襲います」



「は、はあ……」



 じゃあ安心かあ。ざまあみやがれ。



「って、そうじゃなくて! えっ誰? ナースさん?」



 身体が動かせないオレを見下ろすように、1人の女性がこちらの様子を伺っている。



「わたしは女神……〝女神ポルテト〟。ポルちゃんでもテトちゃんでも好きなように呼んでくださいね」



「ポ、ポルテトさん……?」



「…………」



「ポ、ポルちゃん」



「正解」



 なんだよ正解って。



「あなたの名前は桃山焔(ももやまほむら)。15才・男性、身長158cm……平均よりだいぶ小さいですね。あだ名はほむほむでしょうか」



「おい気にしてんだからやめてくれ……って、なんでオレのことを……?」



「女神なので」



「そうですか」



 じゃあ納得かあ。



 ―― ――



「そうか、オレは死んだのか……」



 女神ポルテトの話を信じるならば、オレは子猫を庇ったときに男に刺されて出血多量で死んでしまい、現在は魂だけの状態らしい。

で、今いるこの真っ白な空間は異空間というか、世界の狭間というか……まあそんな感じ。



「ホムラくん、あなたは自分の人生と引き換えに尊い命を護りました。そのご褒美に、この女神ポルテトが異世界に転生させてあげます」



「えっなんで? また日本で良いよオレ」



「チートスキルもあげちゃいます」



「えっ……うーん……」



 これ、もしかして死に際に見てる夢かなにかか?



「オレ、コツコツレベル上げてカンストしたい派だからチートスキルはなあ……」



「それなら魔力レベルの上限解放でどうでしょう。自分の努力次第で鍛えれば鍛えるだけ強くなれますよ」



「まあ、そういうのなら良いかも……」



「決まりですね。それじゃあ後は転生場所の設定と……あ、年齢はどうします? 赤ちゃんから生まれ直したいですか?」



「いや、よく分かんないし今の年齢で良いけど……」



 女神ポルテトが横でカチャカチャと何かを操作している音が聞こえる。



「特別に転生場所もホムラくんに選ばせてあげましょう。火と水と草、どれが良いですか?」



「えっなに? ポケモンの話?」



「転生予定の街の話です」



「じゃあ……火で」



 自分の『焔』という名前のイメージで、ゲームとかだと大体いつも火属性タイプを選んじゃうんだよな。



「火ですね。それじゃあ『灼熱の街カマド』の領主の息子にでも……はっくちゅん!!!!」



 カチャカチャッ! ッターン!



「あっやば」



「びっくりしたー……随分デカいくしゃみだな。女神も風邪ひいたり……ん、どうした?」



「……いやあ、ちょっと。座標の設定ミスっちゃいまして」



「は? ミスった?」



「ちょ~っと転生地点がずれちゃったといいますか。隠しダンジョンの最深部といいますか」



「隠しダンジョン!? いやいやいや冗談じゃねえって! 一番ヤバそうな所じゃん!」



「ついでに年齢設定もミスってマイナス5才スタートにしちゃいました」



「おい!?」



 なんだこのポンコツ女神は……たまげたなあ。



「すいません。設定完了しちゃったんでもう修正できなくてですね……お詫びにダンジョンでギリ生き残れるかもしれない可能性があるくらいの装備と耐性スキル振っておくんで……」



「いや待ってくれって、ダンジョンの最深部ってボス前スタートってこと? 無理だよそんなん」



「あっもう時間ですね。それじゃあホムラくん、新しい人生を楽しんでください! いってらっしゃい!」



「おいこのやろおおおおおお!?」



 ……。



 …………。



 こうしてオレは、異世界の裏ボスが統べる過酷なダンジョンに転生した。

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