第19話 運命の杖

彼は影から彼女を尾行していた。彼女はまるで何かを隠しているかのように、早足で街を進んでいく。装備を整えた彼は、そのまま後を追った。小さな杖を持った彼女の姿が、夕暮れの光に映えた。


「何を企んでいるんだ…」と、彼は心の内で問いかけながら、彼女の後を絶えず睨んでいた。彼女の行動には不自然な点が多く、彼はある嘘の片鱗を掴んでいた。彼女が信じていることは、果たして真実なのだろうか。


彼女が馬小屋の前で立ち止まった。その瞬間、彼は身を隠した。鼻歌を口ずさみ、まるで何も気にしていないかのように装っている。しかし、彼女の目に宿る緊張感は、彼に気を付けさせる。


「もう少しだ、落ち着け…」彼は自らに言い聞かせていた。彼女が馬に乗り込むと、彼の心臓は早鐘のように打ち始めた。そして、逃げ出すかのように馬が走り去る瞬間、彼は決断をした。彼女の後を追わなければならない。

(雪の奴、はじめから……)


しばらく走った後、彼は突然、地面に倒れ込んだ。吐血し、視界がぼやけていく。どうやら無理をしすぎたらしい。彼女は遠く、道を進んでいる。その背中はますます遠くなる。


「行かなければ…!」彼は意地を張り、再び立ち上がる。杖を使って身体を支えながら、ゆっくりと彼女の方へ向かう。目的地が何であれ、彼は真実を見極めなければならない。この嘘の鎖から解放されるために…。


心のどこかで、彼女が彼を待っているかもしれないという希望が、彼を再び走らせる。彼の冒険は、今始まったばかりだった。

「勝元、大丈夫か?」背後から声がかけられた。彼は室町時代の有名人、細川勝元だ。驚きが彼の心臓を止めそうになった。彼は一瞬、思考が混乱した。勝元は歴史に名を刻む武将であり、この時代には存在しないはずだ。


「お前がここにいるはずがない…」彼は振り返り、勝元の目を見つめた。その目には熟練した武士の落ち着きが宿っていた。


「時空を超えた幻ではない。お前に必要な力を貸すために来たのだ」勝元の声は静かだが、どこか不思議な威厳があった。

 彼は六角時綱(ケンドーコバヤシ)。

 六角満綱の次男として誕生。

 文安元年(1444年)、兄・持綱に不満を抱いた家臣団から擁立され、翌文安2年(1445年)に父と兄を自殺に追い込んだ。室町幕府は弟・久頼を還俗させ、文安3年(1446年)8月に京極持清と共に時綱一派を討ち取る命令を下した。時綱らは近江国愛知郡飯高山で蜂起したが、9月5日に久頼と京極持清の軍勢に攻め込まれ、飯高山で家臣団と共に自害した。

 子・政堯は生き残り、後に近江守護に任命されている。



「力…?」彼は息を整えながら立ち上がり、勝元を凝視した。「私はただ、彼女を追いかけているだけだ。彼女が嘘をついているのか、何を隠しているのか、それすらわからない。」


勝元は頷き、彼への理解を示した。「重要なのは、真実を見極めることだ。しかし、そのためにはお前の強さが試される。尾行を続ければ、彼女の目的地にたどり着くこともできるだろう。しかし、敵もまた暗闇の中で待ち構えている。」


「敵?」彼は驚いた。「彼女に敵がいるのか?」


「彼女が持つ秘密は、多くの者に狙われている。嘘は一つとは限らない。真実もまた、たくさんの仮面を持っているのだ。」勝元は彼の目を真剣に見つめ、何かを訴えかけた。


彼はその言葉の重みに息を呑んだ。「彼女が持っているのは…」「強力なものだ。そのものが、君の運命に大きな影響を与えることになるだろう。」


「どうすればいい?」彼は自らの内なる不安を感じながら尋ねた。


「さあ、行こう。次の一歩を踏み出す時だ。この杖を使うがいい。お前の力を引き出し、真実に迫る手助けをする。」勝元は彼に杖を渡した。


彼は杖を手に取り、勝元の言葉に勇気を与えられる。彼女の行き先を追うため、彼は再び立ち上がった。「ありがとう、勝元。あなたと共に、真実を見つける。」


二人は、夕暮れの中を進んでいく。謎と危険が待ち受ける道のりだが、心に希望を抱いて。彼はもう一度、彼女を追いかける覚悟を決めた。彼の冒険は、今こそ真実を求める旅へと変わるのだった。

 

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