画獣夢晴~夢世界を渡る力を手に入れたおれは、想像力で現実世界を救いたい~

長月そら葉

第1章 夢世界を渡る者

序 夢での出会い

 あれはいつの頃だっただろう。

 病院の白っぽい天井にも壁にも布団にも慣れて、やっぱり早く家に帰りたいなと漠然と思っていた。それでも病気というものは無情で、おれはもしかしたらずっとここにいる、もしくはあの世に行くんじゃないかって想像するのも簡単だった。


「――けほっけほっ」

守晴すばる、守晴! お母さんがついているからね……」


 おれが咳込むと、母親は必死におれを励ました。それは父親も同じで、週末見舞いに来ては、おれがせがむと仕事の話もしてくれたものだ。


「……さびしい」


 幼いおれは、それでも夜になると寂しかった。消灯時間を過ぎれば皆当然寝静まってしまい、ひとりぼっちになってしまった気がしたから。


(ともだちがほしい。だれかとはなしたい。わらいあいたい。……いつか、できるのかなぁ?)


 入退院を繰り返すおれは、友だちを作る暇もない。幼稚園生の年齢だったから、学校のクラスメイトという存在もいない。それでも時折、そんな夢を想像して眠っていた。

 だから、あの時は本当に驚いた。


「……ここ、どこ?」


 眠っていたのは、病室だったはず。それなのに目覚めたのは、東京か何処かの都会のど真ん中、スクランブル交差点の中央。

 見慣れたものが何もなく、幼いおれは戸惑って困って泣きそうになった。咄嗟に両親を呼んだけれど、声をかけてきたのは両親などではない。


「――どうしたの?」

「ママもパパもいないの。……ひくっ……ここ、どこぉ?」

「ひとりで迷い込んじゃったのか。困ったな……」

「すばる、かえれない?」

「……すばる?」


 背が高く、おれを見下ろしていたは、おれの名を聞いて驚いたようだった。改めて名前を確かめられ、おれは守晴だと答えた。するとその人は、うんうんと納得して「呼ばれたんだね」と微笑んだ。


「よばれた?」

「今はまだわからないと思うけど、大きくなったらその時が来るよ」

「……あなた、だあれ?」


 きょとんと首を傾げたおれに、その人は答えをくれなかった。型を竦めて小さく笑い声を上げ、おれの頭を撫でただけ。


「今は内緒。次会った時、教えてあげよう」


 さあ、きみは一度帰らなければ。その人の言葉に、おれは目を丸くした。


「かえれるの?」

「帰れるよ。ほら、あの扉が見える?」

「とびら?」


 その人の指差す方を見れば、確かに半開きの扉があった。その人と同じように指差して、おれは「あれ?」と尋ねる。


「そう、あれ。あの扉をくぐる時、寝る前にいた場所を思い浮かべてごらん。ちゃんと目が覚めるから」

「……わかった」


 おれは素直に頷いて、扉の前まで行った。ドアノブに手を伸ばし、大きく開く。するとドアの向こうには光が溢れていて、それ以外は何も見えなかった。

 幼いおれは光の洪水が怖く感じて、あの人を捜して振り返った。するとあの人は変わらずそこにいて、おれに向かって手を振ったんだ。


「また会おう、

「またね」


 おれは手を振り返し、意を決して扉の向こうへ飛び込んだ。きちんと病室のベッドにいることをイメージしながら。


「……あ」


 目を覚ますと、確かにおれは帰ってきていた。ホッとしながらも、ふと思い出すのはあの人の別れ際の言葉。


(そういえば、なんですばるのなまえをしっていたんだろう?)


 すばるという名前自体は、あの人の前で口にしたからわかる。しかし名字は言った覚えがない。幼いおれはそれほど疑問に思わなかったけれど、ふと思い出した今ならば大きな疑問だ。

 その人の正体を知るのは、それから十年以上先のこと。

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2024年11月29日 18:01
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画獣夢晴~夢世界を渡る力を手に入れたおれは、想像力で現実世界を救いたい~ 長月そら葉 @so25r-a

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