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◆ぽ◆た◆っ◆
「なぁ、起きろよ」
誰かの話し声がする。
「そんな所で寝てたら風邪ひいちゃうよ?」
それはとても懐かしく、心を幸せにする二つの声。
「あら、もう少し寝かせてあげたら?」
「いやいや母さん。父さんを甘やかしちゃ駄目だぜ」
「そうそう」
「あらあら。これじゃ、どっちが親か分からないわね◾️◾️」
暖かくて、心地よくて。似合わない言葉を溢してしまうほどに幸せな――。
◆オ◆モ◆イ◆ダ◆セ◆
「――っ!」
「あ、起きた。おはよう」
「おはようございます、ロキさん」
ロキが勢いよく飛び起きると、傍から兄妹が呑気に挨拶を交わしてくる。彼は先程の不思議な夢のことに頭が追いつけずにいる中で、なんとか意識を兄妹に向けて吃りながら「あっ、お、おはよう」と挨拶を返した。
それを聞いた兄妹はニコリと花のような笑みを見せる。いったい、数日前までの彼等の緊張感はどこへ行ってしまったのだろうか。兄妹に懐かれてしまっているという事実を、その笑顔からひしひしと感じているロキは、ムズムズする気持ちを無くすために兄妹から目を逸らそうとしたものの。
「ん? そんな耳飾り、してたっけ?」
兄ナリの右耳に、妹ナルの左耳に。お揃いのひし形の翡翠が揺れている。
「あぁ、これ? ファフニールさんが作ってくれたんだ!」
「兄さんとお揃いなんです! えへへ、似合ってますか?」
「へぇ、良かったじゃん、うん似合ってるよ」
似合っていると言われたナルは更に口角を上げて喜びを表現する。
「へへ。んじゃ、早く来いよ」
兄妹はロキを起こす任務をを全うしたからか、すぐにロキの部屋を後にした。そんな彼等に「はいはい」と軽く返事をして溜め息を吐く。
「なんか、一気に疲れたな……」
〈いいじゃないか。嫌われるよりはいい〉
既に夢のことなど忘れたロキは、またも寝台に身体を預けるロキの頭上に、栗鼠の姿をしたロプトがひょっこりと現れる。
「他人事だからって簡単に言ってくれるなよな。子供に懐かれるなんて、ボクには似合わねぇよ」
寝台でぐだぐだとするロキに、ロプトは。
〈――なぁ、君は。あの兄妹を見てどう思う?〉
「は? なんだよそれ」
〈いいから〉
強気に答えを求めるロプトに押されながらロキは「……どう思うって、言われてもなぁ」と口をすぼませる。
「別に……ただの、仲の良い兄妹だな〜とか? 人懐っこい感じとか……うん、騙されそうだな。ボクみたいな奴に」
ロプトからの突拍子もない問いかけに、ロキは気怠げに淡々と答えてやる。その言葉を、ロプトは黙って聞いていた。
「……なぁ、ロプトはどうなんだよ。君があの兄妹を保護しろって言い出したんだ、何か知ってたりしないのか?」
ロキは頭の片隅で、記憶を掘り起こす。シギュンがいなくなった日。空っぽの部屋に残っていた真っ黒な本の片隅にいた、ロプトのことを。そして、ロプトの言葉を。
――〈なぁ、シギュンを愛してるか。愛しているのなら……シギュンを救うために、力を貸せよ。邪神ロキ〉
「……………………」
〈…………………………。ボクは〉
「あっ、そうだロキ!」
ロプトが何かを言いかけた瞬間、扉が勢いよく開かれる。そこには先程出て行ったナリの姿があった。
「おい、驚かすな!」
驚きのあまりか、ロキは寝台から滑り落ちそうになり、ロプトはどこかへと消えていった。
「え、なんで? 着替えてるわけでもなかったし。いいだろ」
「いや、そういう事じゃ」
「そんでさ。お客さん来てるぞ! さっきはそれ伝えるのに起こしにきたのに、忘れてた」
「話を……は? ここに? ボクの客?」
わざわざ小人の国に、いるはずのないロキに会いにやってきた者。ナリの口から出た「お客さん」という言葉に、ロキは腕を組みながら考える。――彼の脳裏に浮かぶはただ一人。
「あー……ソイツって、金色の髪と瞳だったりするか?」
「うん」
「善人面のニコニコした奴?」
「アンタの言い方、なんか棘があるなぁ」
「綺麗な顔をされた方ですよ」
いつの間にいたのか、ナリの背後から顔を出したナルが答える。
「……そりゃそうだろうよ。なんてったってソイツは――」
そんな彼等の会話が広がるなか、扉が二回叩かれる。
「「あっ」」
「いつまで待たせるんだ、ロキ」
そこには、白い装束に身を包み金色に輝く、きっちりとした印象を持つ短髪に凛とした瞳を持つ美青年がそこにいた。
「あっはは。ボクに会えなくて寂しかったか、バルドル」
「……貴方に頼もうとしていたレムレス討伐、五倍に増やしてもいいだが?」
「……悪かった、ボクの負け」
ニコリと微笑みながらとんでもないことを言ってきたバルドルに向かって、ロキは両手をあげる。そんな彼の素直な態度に「それでいいんだ」と彼は言う。そんな二人のやり取りを見ていた兄妹はというと。
「バルドルって……光の神バルドル?」
「最高神オーディン様の一人息子っていう」
光の神バルドル。この世界の第二権力者であり、最高神オーディンの優しさ全てを吸い取って生まれたのではないかと噂されるほど、彼は皆に優しく愛されている。この世界の光として君臨する立場として。
兄妹からの好奇の眼差しを受けながら、バルドルはほんの少し苦笑を見せる。
「あはは。えっと……どこから聞くべきか、正直悩んではいるんだが」
バルドルは兄妹とロキを交互に見ながら、ロキに手を伸ばす。
「神の国に戻るぞ、ロキ」
次の更新予定
暁光のレムレス−邪神ロキは最愛の妻を救うため、記憶喪失の兄妹を保護します− 夜門シヨ @kuro-usagi
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