第三十七話 聖女奥義 のうてん撃

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 ――さて、騎士の皆さんが来てくれたお陰で僕も”聖女”らしいことが出来るぞ。赤髪の石頭さんに回復職の強さを見せつけてやる。


「皆さん一度私の周りに集まって下さい。神よ、勇壮たる者たちに祝福を。癒やしの息吹クラル・レスピラシオン!」


 神聖なる盾ハイリヒ・シルト鉛足プロモ・ピエルナスみたいな補助系法術もウェニーお婆ちゃんの修行のお陰で実戦でも使えるようになったけど、聖女の本領は回復の法術。込められる魔力の量がぜんぜん違うんだよね。


「うぉ!? なんだ? 体が白く光ってやがる、何かとんでもない魔力をかんじるぞ?」


「皆様に癒やしの息吹クラル・レスピラシオンをかけました。疲労を和らげるだけの法術ですが、私の全力を込めております。今日一日は運動による疲労は殆どない筈です」


「いや、一日疲労知らずって……とんでもねえな」


「皆様、来ますよ!」


 僕の声で騎士の皆さんが構えを取る。ロックさんとキースは槍を構え、残りの二人が大盾をもって前に出る。どうやらこの二人が攻撃を受けてくれるのかな。秀彦のやってたタンクってやつだね。残りの一人は小盾と片手剣をもって僕のそばに控えている。どうやら彼は僕の護衛をしてくれるようだ。


「神よ、かの者を守り給え神聖なる盾ハイリヒ・シルト!」


 コボルトチャンピオンの初撃、流石に他のコボルトたちとは動きが違う。神聖なる盾ハイリヒ・シルトをかけたのに、騎士の一人が一歩後ろに押し込まれた。見たところ、体をずらされたとは言え負傷は無い。即座にもう一人が盾撃シールドバッシュで体勢を崩し立ち直る隙を作る。


 二人がかりで抑え込まれ動きを止めたコボルトチャンピオンに今度はロックさんとキースの鋭い突きが襲うが、コボルトチャンピオンはあっさりと盾を押すのを止め、後方に飛ぶ事でこれを躱す。巨体なのに他のコボルトより動きが速い。


「反応が早いですね……!? 神聖なる盾ハイリヒ・シルト!」


 下がったと思わせてから再度のアタック、動きの切り返しが早い。詠唱が間に合わなかった。無詠唱の神聖なる盾ハイリヒ・シルトは薄いガラスのように簡単に破られてしまった。でも、そこは流石の精鋭。僕のサポートが不十分でも大したダメージは受けていない。それどころか、先程とは違い今度はキースの槍がチャンピオンの肩に突き刺さっていた。


「く、硬ってぇ。肉の感触じゃねえぞこれ!」


「キースさん無理に刺さないで、すぐに距離をとって! ロックさん。キースさんの離脱の援護を! 神よ、癒やしの奇跡を子等に下級治癒術ヒール!」


 タンクさんにヒールを飛ばしつつ、キースとロックさんに攻撃のタイミングを指示する。攻撃があまりに速かったので最初は驚いたけど、動きそのものはさほど複雑ではないみたい。もう少し観察が必要だけど、多分ここ……


 恐らく来るだろう・・・・・・・・場所に神聖なる盾ハイリヒ・シルトを展開。


 響き渡る金属音に似た轟音。僕の読みが当たった証拠だ。自分の攻撃が防がれた理由が良く分からなかったのか、チャンピオンの動きに迷いが生まれた。


「今です、キースさんロックさん大きいの決めて下さい!」


「おうよ!貫通撃ピアッシングランス


 先程より鋭い突きがチャンピオンの体を貫いた。今度は僕が声をかけるまでもなく、二人共即座に離脱してくれた。おかげで神聖なる盾ハイリヒ・シルトを余裕を持って展開できる。タンクの二人の傷を癒やしつつ、コボルトチャンピオンの次の行動に注視した。


「どうやら余裕でやれそうだな! へっ、とんだ見掛け倒しだぜ」


 ……っ! キィィィス、何いきなりフラグ建てるんだ! お前ひょっとして国に婚約者とか置いてきてないだろうな!?


「へへっ! 今回の給料入ったら俺、アイツに……」


「やめろぉぉぉっ!?」


 この馬鹿野郎!? いきなり死にたがりやがって。何考えてるんだコイツは。ラノベとか漫画とか詳しくない僕ですら知ってる死亡フラグだぞ!


 直後、この馬鹿馬鹿の立てたフラグはその猛威をふるい始めた。突然遠吠えをしたコボルトチャンピオンの全身の毛が、金色に輝き始めたのだ。明らかに先程より危ない雰囲気が漂っている。


「おいいいい、キースお前えええぇぇぇぇ!?」


「えぇっ!? 俺が悪いのか? これ」


 どう考えてもキースのせいでチャンピオンに変化が起こった。金色に光ったチャンピオンはその巨躯を更に膨らませ、全身の毛を逆立てる。なんだあれは、帯電しているのか?いや、電気では無さそう、魔力が溢れている?


「聖女様お下がり下さい! これがコボルトチャンピオンが危険と言われる所以です」


「追い詰められた奴は”本気”を出します」


「ここからのコボルトチャンピオンの危険度は今までの比ではありません! 我々が崩れたら即座にお逃げ下さい!」


 タンクの騎士様の言葉が終わらないうちに、金色の獣の咆哮が響き渡った。聞くだけで全身に震えが来る。

 なるほどこれはすごい迫力。一瞬その姿がかき消えたのかと錯覚するほどの速度で、チャンピオンは間合いを詰めてきた。何とか神聖なる盾ハイリヒ・シルトを無詠唱で唱えたが、威力の弱い無詠唱ではたやすく突破されてしまい、盾の騎士様が吹き飛ばされる。先程までなら多少は効果があったのに。動きが速いだけでなく、膂力も大きく向上しているらしい。


「クソ、動きが速ええ!」


 吹き飛ばされた騎士様の穴を埋めるようにキースが槍を突き出すが、それを余裕で躱すともう一方のタンクを吹き飛ばす。一連の動作が速すぎて神聖なる盾ハイリヒ・シルトが間に合わない。


 直後こちらに向かおうとしたチャンピオンだったが、これをロックさんとキース、更には僕の横にいた騎士様で無理やり食い止めると、流石のチャンピオンも勢いをなくし一旦後方へ距離を取る。


 その間に再び盾役の人たちが戻り、陣形は回復。しかし、今の一瞬でチャンピオンの力をまざまざと見せつけられてしまった。さっきまでとは別物のように危険な魔物だ。


 でも皆が足止めをしてくれたお陰で大体わかってきたよ。


「――と、と、とん、ここかな?」


 再び襲いかかってきたチャンピオンの攻撃によって響き渡る金属音。今回はきちんと詠唱を行った神聖なる盾ハイリヒ・シルトがチャンピオンの攻撃を受け止める。しかし、それでもチャンピオンの爪の勢いを殺しきれず、僕の障壁を破って騎士の皆さんを斬り裂いた。


「女神よ、その癒しの手よ、傷つきし汝が子等に祝福を!中級治癒術ミドルヒール!」


 しかし、障壁が破られるのは予想していたので、即座に治癒法術の詠唱を行う。斬り傷くらいなら相当深くても僕の法術は治癒しきってくれる。内臓に達してしまっても抉り出されたりしてなければ、今の僕なら治療可能だ。あまり深いと一度では癒やしきれない事もあるけどね。


 とにかく、神聖なる盾ハイリヒ・シルトだけでは駄目だけど、中級治癒術ミドルヒールも合わせれば、このとんでもない化け物にも対抗できるかも知れない。騎士の皆さんも力では押されているけど、しっかり致命傷は避けてくれているみたいだし。


「皆さん防御と回復は任せて下さい! 命さえ失ってなければ私が必ずお守りいたします!」


「ぇえ……お前さっきの醜態晒してまだその聖女キャラで行くのか!?」


 うるさい馬鹿キースは無視して、チャンピオンを睨みつける。とにかくあの動きをどうにかしないと。いつか僕の魔力が尽きた時、一気に戦線が崩壊してしまう。今、僕が使える弱体の法術は鉛足プロモ・ピエルナスしか無いけど。この状況でなら無いよりマシなはず。


 凄まじい勢いで突進を繰り返すチャンピオンに、要所要所で効果時間を犠牲にして威力を増した鉛足プロモ・ピエルナスをうって足を止める、きっとコボルトチャンピオンにしてみたら、突然歩き辛くなったな位にしか感じていないだろう。でもそれで良い。更に振り下ろされる爪には神聖なる盾ハイリヒ・シルト中級治癒術ミドルヒールで丁寧に対処していく。足止めのせいで僅かに軸がズレているため、その威力も封じやすい。


「皆様、まずは重点的に足を狙います。急所を狙うのはその後で」


「機動力を奪うのか?」


「もちろんそれもありますが、それだけでは御座いません。コボルトチャンピオンは見た目とは裏腹に、四足で駆けて牙で噛むような獣じみた動きはしておりません。二足で戦う以上戦法は対獣ではなく対人を意識するのがよろしいかと思います」


「なるほど、納得した。あと、やっぱりそのキャラで行くんだな? その仮面つけたままなのにそのキャラで通すんだな?」


「皆様! よろしくお願いいたします!」


「お前本当に図太いな!?」


 約一名ギャンギャン吠えているけど、騎士団の皆さんは僕の声に即応してくれた。チャンピオンの攻撃は大盾の二人がかろうじて防ぎ、動きの止まったところをロックさんとキースの槍で脚部を傷つける。身体能力が高いとは言え、知性はあまり高くないコボルトチャンピオンは、足への攻撃を軽微なものと見たらしく、これと言った防御を取らず、目の前に騎士に攻撃を加える。金色に輝く夥しい数の軌跡が騎士達に叩き込まれていく。


 しかし僕の障壁法術と回復法術によって彼らの防御の堅牢さは崩れない。確かにその強力な攻撃は盾では受けきれず、騎士の皆さんの体に届き、彼らを追い詰めていくが、それを即座に法術で癒やしていく。傷が癒やされるなら、痛みだけであるなら、彼らを退けることは出来ない。本当に練度の高い騎士団だと思う。




 ――徐々に、徐々にではあるけど、騎士の皆さんの負傷する頻度が減ってきた。ようやくチャンピオンの脚部の負傷が、その攻撃力や機動力に影響を及ぼしてきたんだ。それに強力な魔物とは言え、生き物である以上疲労というものがある。こちらは疲れないがあちらは疲れる。単純な話だけどこの差は大きい。最初のラッシュを防げた時点で、僕らの勝利は決まっていたのだ。最早呼吸すらも苦痛になってきたのか、その口は半開きになり、大量の唾液が流れ落ちている。


 そこからの展開は一方的だった。自らの負傷が危険なものだと気がついたコボルトチャンピオンは、足を攻撃される事を嫌いはじめた。一旦距離をとり、安全な遠距離からのヒットアンドアウェイに切り替えたようだが、それは完全に悪手だった。足の負傷が原因で圧されているのだから、機動力も無くなった状態で取るべき手段ではない。それでも本能的に体を傷つけられることを嫌ったのか、なるべく距離をとっての戦闘は続く。


 最早チャンピオンに前線を切り崩す力はなく、こちらへ驚異が迫ることはなくなったので、僕の護衛をしていた騎士様も今はチャンピオンを積極的に斬りつけていた。果敢に攻める騎士様たちは非常に男らしくて格好いい。


 ――うずうず


 追い詰められているとはいえ、チャンピオンの体力は凄まじく、まだまだ止めを刺すには至らない。とは言え、時々行われる反撃も、すべて丁寧に神聖なる盾ハイリヒ・シルトで弾いていく。最早”彼”にこれを壊す力は残っていない。あとは時間の問題なのだ。


 ――――うずうずうず


 うん、もう聖女の有用性は見せたよね! 聖女らしく戦うのはここまででいいよね!!


「よし、僕もいくぞぉ! 聖女流杖術”飛翔のうてん撃”!」


 とりゃっ! 跳躍した僕の渾身の一撃がチャンピオンの眉間を捉えた! 相手は死ぬ!


「やったか!? ……うん? うひゃあぁぁぁぁあっ!?」


 直後僕の視界が上下左右めちゃくちゃに揺れて、葉っぱや土が口の中に入ってきた。どうやらコボルトチャンピオンの反撃で顔を殴られてしまったらしい。うぅ、一応女の子の顔になんてことしやがるんだ。中身男だけど……仮面被ってなかったら危なかったかも知れない。その仮面恩人さんは吹き飛ばされて地面に落ちているのだけど。


 僕としたことがあんなお約束なフラグを立ててしまうとは、不覚……


「おい、ギミング! 大丈夫か!?」


「あひぃ、なんとか~」


 キースが心配そうな顔で近寄ってくるのが見える。とりあえず殴られた頬と転がった全身が痛いので下級治癒術ヒール浄化ライニグングをかける。どうやらふっとばされている間にチャンピオンは仕留められたみたい。


「怪我はねえか?」


「うん、大丈夫、怪我は全部治したよ」


「そうか、じゃあ歯食いしばれ!」


「……え? ひぎっ!?」


 痛い!なにするんだこの馬鹿! いきなり拳骨で頭を殴られた。


「お前が倒れたら周りもみんな死ぬんだ! 戦場であんな行動は二度とするな!」


「……ぅう」


「返事は?」


「……ごめんなさい」


 キースのくせにド正論だ。確かにあんな行動、遊びじゃない状況でやるべきじゃなかった。反省……戦いで興奮しちゃって皆を危険に晒すのは確かに良くない。キースが初めて騎士様らしく見えたよ。御免なさい。


 僕が反省して悄気げていると、今度は大きな手が僕の頭をワシャワシャと撫でてきた。いや、これは撫でると言うかシェイクだね。


「だが、最後の変な突貫以外は良くやった。お前の法術すげぇな! あんなの見た事ねえぜ!」


 グリングリン、脳みそが揺れる……。


「う、おぉ!? ぉっそ、そ、そ、う、だろ、お、お、お!?」


 お、お、お、今度はご褒美のつもりなのか? この馬鹿、力が強すぎて拳骨よりダメージありそうなんだけどどどど!? 鼻と目と耳から血とか出てないよね!?


「おい、キース。その辺にしろ、聖女様が死ぬぞ……ぉっ!?」


「ん、どうしたアベル?」


 ふぬ、揺れる視界に驚きの表情で固まる護衛をしていてくれた騎士様が見える。そうか、アベルさんというのか~。ゆれゆれゆれるぅ……。


「あ、いや、仮面を外されている姿を近くで見たのは初めてだったのでな。驚いた、これほどお美しい方だったとは……」


「……ん? あー、たしかに言われてみれば。おい、ギミング、お前めっちゃかわいいじゃねえか!」


「お前はさっきから何度も顔見てるだろ!?」


 やめろ、人の顔を掴んで近づけるな! お前の女の子の扱いどうなってんだ! 秀彦ゴリラだってもうちょっと紳士的だぞ! お前はゴリラ以下だ、この、この、チンパン!!


「ガハハ、馬鹿みたいな事ばっかりしやがるから、見てくれの良さとか気にしてなかったわ!」


「馬鹿とはなんだー、マウス君! この馬鹿に制裁!!」


「チッチゥッ!!」


「うぉあ!?」


 僕の袖から薄っすら光を纏ったマウス君が飛び出し、キースの鼻を直撃する。鼻血を吹き出したところを見るとなかなかの衝撃だ。


「クソ痛ぇ!? たまに出てくるその小せえのはなんなんだ!?」


 キースの顔を跳ね上げたマウス君は、地面に着地すると、「ちちちっ!」と威嚇しつつ、例の荒ぶる熊のポーズをとる。君、その構え気に入っているの?


「僕の親友マウス君だ! 友情に篤いマウス君は僕への暴言は許さないからな! あとちょっとやりすぎてごめんねの浄化ライニグング!」


 鼻血は出たけど、そんなに酷い怪我でも無さそうなので暫くそのままで居てもらおう、あとで下級治癒術ヒールはしてあげるけどね。


下級治癒術ヒールじゃねえのかよ!? あと鼠が親友ってお前、可哀想な子なのか?」


 よし、下級治癒術ヒールも無しだ、鼻が疼くたび思い出すがいい!! もうイッパツくれてやろうか? おっ?


 僕らがガンをつけあっていると、横から爽やかな笑い声が聞こえてきた。そちらを見れば朗らかに笑うイケメン騎士様、ロックさんが立っていた。チンパンと同じ騎士団の人とは思えないな。


「ふふふ、お二人は随分と仲が良いのですね。まるでずっと友人だったかのようだ」


「あ、ロックさん。お怪我は大丈夫? ヒールしましょうか?」


「ええ、大丈夫です。聖女様のお手を煩わすような負傷はございません。それよりその口調……」


「……あ」


 いかん聖女の皮が剥がれてる!! これでは清楚な聖女キャラが崩壊してしまう!?


「あ、そのようなお顔なさらずとも大丈夫ですよ。そもそも、ヘミングのふりをなさって騎士団に潜り込むなどというエキセントリック……コホン。活発な方である事は初めから分っておりましたから」


 うん、言い直したけど完全に言いきっていたね! いいよ、もう。猫は捨てよう。


「みなさんお疲れさまでした。思ったより怪我とかさせちゃってごめんなさい」


「とんでもない。聖女様が居なければ、コボルトチャンピオンとウォーリアの同時戦闘など、どれだけの犠牲が出ていたことか」


「……確かにな、いくら隊長でもウォーリア二匹を相手にするのはきついだろうし、その間俺たちでチャンピオンと戦うっても、ある程度ダメージ負わせるまでに何人か犠牲になったかもしれねえ。ギミングはよくやってたぜ」


「キース、そのギミングってのはなんだ?」


 一番離れた所に好たタンクのお二人もこちらにやってきた。足取りがしっかりしているのでダメージは無さそうだ。


「お、お前らもお疲れ、オルガ、マッシュ。ギミングってのはな、ヘミングの偽物で偽ミングだ、コイツにぴったりな名前だろう?」


「……お前、不敬罪で聖女様に処刑されるぞ?」


 おお、ここで盾騎士様方のお名前が! いきなり戦闘だったから自己紹介とか出来なかったもんね。


「皆様お疲れさまでした。今更ですが自己紹介をしますね。僕は棗、ナツメ=キヨカワ。ご存知の通り聖女をしています」


「ぅお、仮面を外されると別人のようだな。こんな可憐な方だったのか」


「なぜか口調は仮面をしていない時のほうが砕けておられるようですが。……何故あんな仮面をしているんです?」


 何でと言われても……。


「あれは女神マディスから直接頂いたアーティファクトですので……」


「……はぁっ!?」


「あれが……女神の……」


「あれ、マディス神って邪神じゃないよな? な?」


「お前、流石にそれは粛清されるぞ!」


 あれあれあれ、なんだか僕のせいでマディス様の評価が……あの仮面結構気に入っているんだけどな。なんかエキゾチックで神秘的な魅力がないかい?


「あれが女神様の贈り物で、被ってるのが聖女様ってのはちょっと信じがたいデザインだけどな。ちなみにあの仮面は女神様が選んだのか?」


「いや、僕が選んだよ?」


「……だと思ったわ。さっきの技名聞いた時も思ったけど、お前センス悪いだろ?」


「なんですとぉっ!?」


 なんだよぉ、周りのみんなも笑ってる。ぼ、僕のセンスは悪くないぞ。ちょっと個性的なだけだからな? 僕は土で汚れてしまった仮面を拾い上げると、浄化ライニグングをかけてからかぶり直した。良いんだ、この仮面のかっこよさは僕と孤児院のみんなだけ分かってれば。孤児院の皆はこれつけた僕も好きって言ってくれるもんね。


 僕が仮面を被った瞬間、騎士団の皆さんはがっかりしたような憐れむような、そんな微妙な表情を浮かべていた。……なんだよぅ。




 こんな話をしつつ周りを見渡すと。先輩が勝鬨を上げているのが見えた。どうやらウォーリアはとっくに倒されていたみたいだね。そして、赤い髪のイケメンさんがこちらに歩いてくるのが見えた。ふふーん! どうですか団長どの、僕の聖女っぷりは! 褒めてくれても良いんですよ!



 ……ん? 


 眉間にお皺が……あれぇ……?



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