第二十一話 アメちゃん
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新しい相棒を手に上機嫌でウェニーお婆ちゃんの所から食堂に移動すると、そこには既に先輩とゴリラとセシルが座っていた。どうやら皆待っていてくれたらしい。
「おう、遅かったじゃねえか。――って、何だその杖? なんか凄えな」
「お、これの良さが分かるのかねゴリラ君、ふふん」
早速皆の視線が
「なんとも変わった杖だね?先端にそんな巨大な紫水晶がついているのに重くはないのかい?」
むむ? 言われてみれば確かに。何でだろう? 確かにこの子、こんなでっかい石が付いてるのに羽のように軽いんだよね。僕が良く解らずオロオロしていると、セシルが笑いながら説明をしてくれた。
「ふふ、そのアメジストは魔石で御座いますから、ナツメ様の魔力を注ぐ事で重さを軽減されているんですよ」
――なんとそうだったのか。
「なんでお前もびっくりした顔してるんだよ……」
「だって何かこの子、最初から手に馴染んでて、魔力を込めた感覚とか殆どなかったんだもん」
でも、セシルは僕の杖の説明をした後、少しだけ怪訝そうな顔をしながら
「しかし、その様な杖、大賢者様のお部屋にありましたか?」
「大賢者様?」
「ええ、ウェニーフィカ様は賢者の上に立つもの。大賢者の称号を持った最高位の魔法使いなのですよ」
なんと、ウェニーお婆ちゃんは大賢者様と呼ばれているような凄い魔法使いだったらしい。ウォルンタースさんそんな事一言も言わないから、めっちゃフランクに話しかけちゃったじゃないか……あ、ウォルンタースさん目逸した。
――まあ良いや。でも、取り敢えずお婆ちゃん呼ばわりしちゃった事はセシルには隠して置こう。怒られるかもしれないからね。
「ですが、無事杖を下さったのですね。と、言う事は今日はご機嫌が良かったようですね。気難しい御方ですので、駄目で元々みたいな所はあったのですが。有難うウォルンタース、貴方が上手く取成してくれたのですね?」
「いえ、私など何も。私が
「なんですって、あの大賢者様が!?一体何があったと言うのですか……」
「なんでも御孫
「オマゴパワー!?」
女王様が何かをウォルンタースさんに言われて驚いているみたいだけど、取り敢えず僕は葵先輩と秀彦の元に向かう。一刻も早く二人にこの杖
「ふふ、とても嬉しそうな顔をしているね棗君、いつも可愛いけど、今日は目がキラキラしているよ」
「えへへ」
「ん~♪ いい笑顔だねえ、どれちょっと目を瞑ってご覧? お姉ちゃんが良いことをして、アイタッ!!」
「さりげない流れでセクハラしようとすんな変態。とは言えその杖、なんか良いな。なんか凄えお前に似合ってるぜ?」
「本当か? 有難うヒデ、凄く嬉しいっ!」
「お、おう……」
なんかアメちゃんって、貰ったばかりなのに凄く愛着湧いているから、褒められると自分の事みたいに嬉しい。ううん、自分のことより嬉しいかもしれない。
笑顔でお礼を言ったらなぜか秀彦の顔が赤くなっていく、何だろ、風邪かな?
「嗚呼、なんて顔するんだナツメきゅううううん!!!!」
「うぎゃぁっ!?」
赤くなって行く秀彦を眺めていたら、突然横から葵先輩に抱きしめられた。止めてくれ、乳圧で息が出来ない!?しかも、息が苦しいだけじゃなく、この柔らかさに以前には感じなかった苛立ちも感じるし……。く、この、この!! 取り敢えずボディだ!
「ふふ、ココ最近鍛え抜いたからね、最早一切の痛みもないよ棗きゅん! これから毎日ハグハグしてあげましょうねぇ~デュフフ」
この、この、離せ離せー!
「可愛い、可愛い、可愛いものだね、棗君! そんなに必死になって。最早お姉ちゃんにはその程度の攻撃は子猫ちゃんがじゃれているのと変わらないのにね、ふふふ。どれだけでも打てばいいよ、お姉ちゃんは全てを受け入れてあげ……ぅぐ、な、なん……で? こんな、痛みはないのに、こんな、こふっ、なんて的確に内臓を……」
「痛みを与えなくても血管が集中している内臓を打ち続ければ、人は酸素不足になるんだ!」
「どうして君は、そう無駄な知識を持っているんだね……ぐふっ」
「おい、棗、姉貴にチアノーゼが出てるからそろそろ止めておけ……」
「ぷは、こっちだって酸欠寸前だよ!先輩、次からその邪悪でおっきなオッパイ、僕に近づけたら絶交だからね?」
「お、お、それは困る……解ったよ、もうお姉ちゃんは棗きゅんにオッパイプレスいたしません」
「なんだそのネーミングは……」
よし、どうやら解ってくれたらしい。先輩は大好きだけど、あのスキンシップは命の危険を感じるからね。ちょっときつく言っちゃったけど止めてくれるのは助かるよ。
「次からは私が棗くんのオッパイに顔を沈める事にしよう」
「何も解ってないな!?」
全然理解してくれてなかった……。
と、そう言えば今日は二人も訓練の後どこかに行ってたみたいだけど、僕の
「ねぇ、二人も何か武器とか貰ったの?」
「お、よく聞いてくれたな、女神様から貰ったのは鎧と盾だったからな、俺はこれを貰ったんだ」
そう言って秀彦は後ろのメイドさんにお願いして、一振りの剣を持ってきて見せてくれた。
その剣は綺羅びやかな装飾のなされた鞘に収まっていたが、それ以外の拵えにはまったく飾り気のない片手剣だった。鞘と剣で作った人が違うのかな?
「これは、なんかちぐはぐな雰囲気の剣だね?」
「お、気がついたか、この剣は
「ほうほう、何か特別な力とかあるのかい?」
僕の問に対して秀彦がニヤリと笑う。あ、これ教えてくれないつもりの顔だな?僕を驚かせようとしているときの顔だ。むー、悔しい。
と、横を見ると、秀彦の横で葵先輩がすっごいソワソワしながらこっちをちら見してる。もうダメージ抜けたんだ、タフだね……。凄く話しかけて欲しそうだ、やだなあ。
「ふぅ、しょうがないな。葵先輩も何か貰ったんですか?」
「えぇー、気になっちゃったかぁい? しょうがないな棗きゅんは! 今回だけ特べ「あ、じゃあいいです」待ってよぉぉぉ、何でお姉ちゃんにそんな酷いこと言うんだよぉぉ。聞いてよ、ヒデみたいに聞いてよおぉ」
「もう、最初からそう言えば良いんですよ、で、何を貰ったんですか?」
「……斧」
うん、聞かなきゃ良かった……。
「じゃあご飯にしようか」
「まってよぉぉぉ、見てよ聞いてよぉぉ、葵お姉ちゃんの斧どんやつなのって~。もっと興味みせてね、ね? プリーズ興味持ってミー!!」
「えぇ~……」
斧マニアな先輩は放置したかったのだけど、すんごい泣きながら足に縋り付いてきた、とてもウザイ!
だって両手に斧持ってるのに更に斧ってどういう事なんだよ……。聞きたくないなあ、どうせくだらない理由だもん。でも、このまま無視するのは可愛そうだし……はぁ、仕方がない、聞いてあげようかな。
「仕方ないですね、先輩はどういう斧にしたんですか?」
「えへへ、これだよー」
さっきまで泣いていた先輩がゆるい笑みを浮かべながら渡してきたのは小さな手斧だった。
「あれ、なんか他の2つとは雰囲気が違うんだね?」
「そうだよぉ。何も聞かないであんなこと言うなんて棗君は酷いよ! これはね、近接しか出来なかった私が、考え抜いて選んだ遠距離攻撃用の手斧なんだ」
「へぇ、何で弓とかにしないのか謎だけど色々考えてたんだね、特殊な効果とかもあるの?」
「もちろんだとも! 聞いて驚き給え。なんとこの斧はだね、所持者の力と体力を増やす効果が……」
「またそれかいッッ!!」
結局先輩はどこまで言っても先輩だった。何でそこまで斧好きなんだよ……。
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