第十九話 布食性スライム攻め ……♂
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今日は魔法の訓練だとかで、孤児院のみんなと遊……徳を積む修行を行った後お城に戻り、いつもとは違う通路を案内されていた。薄暗い廊下を進んでいると、いつもなら色々話しかけてくれるウォルンタースさんが無言なのに気がついた。何だか緊張してる?
「ウォルンタースさん?」
つんつん……
「……」
全然反応しない、背中をツンツンしても反応がないので腕とかお尻も突いてみたけど全くの無反応。これは手強い。よーし……。
「ウォルンタースさーん!」
「うぉっ!? ナツメ様、突然大きな声を出されてどうなさったのですか!? 驚きますのでこういった事はご遠慮いただけますと……」
「もう、さっきからずっと呼んでたのに気づいてなかったんですね!」
どうやらウォルンタースさんは何かを考え込んでいるようだったけど、耳元で大声を出されては流石に気がついてくれたようだった。でも、いつも僕のことを気遣ってくれるウォルンタースさんがこんな事になるなんて珍しい。
「今日は一体どうしたんですか? ウォルンタースさん。いつもと雰囲気が違うじゃないですか?」
「う、む……あ、いえ、なんでもありません、大丈夫です。さ、ナツメ様参りましょう」
「むー」
どうにも歯切れが悪いし、いつもより明らかに歩幅が狭い。なんとなくだけど、ウォルンタースさん、この道を進むの嫌がってない? 今の所、特に何も可怪しな所は無いのだけど……この奥には一体なのがあるのだろう?
暫く二人で何もない廊下を進むと、通路の奥に赤っぽい扉が見えてきた。木製みたいだけど妙に赤くて艷やかだ。一目で特別な部屋だということが分かるけど、ウォルンタースさんの緊張がいよいよ高まってきたのが感じられた。一体この扉には何があるのかな?
「ふぅ……スゥー……うむ、良し。ナツメ様、少し離れていて下さい」
「え? あ、うん、わかりました」
何だろう? ノックするのに下がる理由なんてあるのかな? そう言う作法? 違うな、何かウォルンタースさんを緊張させるものがこの扉の奥にあるんだ。
ウォルンタースさんは緊張した面持ちで深呼吸をすると、意を決したように扉に向かって声を上げた。
「失礼いたします、騎士団長ウォルンタース=アニムスであります。本日は勇者召喚により異世界より召喚されました、聖女様をお連れしております。入室の許可を願います」
「……入りな」
室内から低い女性の声が響き、ウォルンタースさんがドアに近づく。僕も後ろから付いて行こうとすると、それをウォルンタースさんは慌てて手で制する。
「ナツメ様少々お待ち下さい、もう少し下がって……」
良く解らないけど真剣その物のウォルンタースさんに気圧されて、僕は二歩ほど後ろに下がった。それを確かめるとウォルンタースさんは慎重にドアノブを二、三回指で突いた後に握る。
「それでは、入りま、んぎょおおおああおあおあおあおっ!?」
「ひぇっ!?」
ドアノブをひねった瞬間、赤い扉が変質し、スライムのようになってウォルンタースさんを包み込む。これは一体!? 扉が変質したのも驚いたけど、一気に飲み込まれていくウォルンタースさんは聞いたこともないような悲鳴を上げている。大丈夫なの? これ……。
「く、今回は扉その物が生体兵器に変質されていたか!! ガボボッ、不覚っっ!!」
「あ、見た目ほどピンチではないんですね?」
とんでもない状況ではあるけど、ウォルンタースさんの声には少し余裕が見られるので安堵する。 とはいえこの状況は一体……状況についていけず呆気にとられるが、室内から楽しげな笑い声が響き渡り、飛んでいた僕の意識が戻される。
「クカカカ、甘いのうウォル坊や、前回ドアノブに放電したのだから、今回はノブに素直な罠を仕掛ける訳は無かろうがよ。裏をかけ、このひよっこが」
「ぐぬぬ、裏の裏かと思えば表から、しかも罠ではなく魔物を作り出すなど、想定外であったわ! 無念」
なんだこの状況……。突然スライムまみれになるオジサンと爆笑する老婆、呆気に取られた僕。誰かこの状況説明してください。
「ところで坊、この娘が例の聖女かい?」
「そうです、ウェネーフィカ様、ガボガボ。今日は彼女を引き合わせるためにお連れいたしました。ゴボボ……」
「はん、勇者召喚かい? 他人様の都合も考えない外法を使うなんざ、セシリアの嬢ちゃんも随分じゃないか?」
ウェネーフィカ様と呼ばれた老女は呆れたような表情になると鼻を鳴らす。どうやら勇者召喚のことを良くは思っていないらしい。こんなとんでもない罠を仕掛けた人物だけど、何だか悪い人では無いみたい?
「しかし、魔王軍の進行は著しく、北の小国もいくつか呑まれたと聞きます。一刻も早く魔族への対抗策を講じなくては、国が滅びます故!」
「対策を講じるなってんじゃないよ、馬鹿な子だね。勇者召喚も自身が外道に落ちる覚悟で使ったなら、まあその気持ちを汲んで別に責めやしないさ。誰も泥をかぶらず、何かを犠牲にせずに現状を打破出来るほど甘い状況ではないからね。異界の戦士に助けを求めるのは良い……だけどね」
ゆっくりとこちらを見据えるウェネーフィカ様。その目には憐憫の光が見て取れる。ウォルンタースさんに対して厳しい表情を浮かべていたウェネーフィカ様は、僕の方を見るとその表情を優しく緩めてくれた。
「私ゃ、何も知らないこんな子ども達を、縁もゆかりも無い世界のために戦わせるってのが気に食わないのさ。いくら神託が下ったからと言って、それを理由にやって良い事じゃないよ、こんな事はね……」
そう言うとウェネーフィカ様は、もう一度厳しく責めるような目をウォルンタースさんに向けた後、僕の方へ近づき、僕の手をそのしわがれた手で包み込むと、申し訳無さそうな顔で僕を見つめてきた。
「お嬢ちゃんすまないね、本当は体張らなきゃならないのはこの婆達なのに」
「え、えーと」
「何も出来ない婆だけど、お嬢ちゃんが死なないように、できるだけの事はさせてもらうよ」
あれー。怖いお婆ちゃんかと思ったら、なんか僕には凄く優しいぞ? ウェネーフィカ様は僕の手を握ると優しく撫でてくれた。シワシワで固くなってしまっているけど、とても優しい手だと思った。
「……ウェネーフィカ様、なんかいい話にしようとしてますけど、そう言う空気出したいなら、毎度ドアにいたずら仕掛けるの辞めてほしいんですがね……。いい加減このスライム何とかしてくれませんか?」
声の方を見ると、全身ヌルヌルになりつつも、自力の脱出は諦めたウォルンタースさんがくたびれた感じで座っていた。不透明なスライムの為、丸い謎物体から頭だけが出ているシュールな姿になってしまっている。
「フンッ、お前は無駄に体力があるんだから自分で何とかおし!! そも、お前がその体力に感けて搦手に対して何にも対策が出来てないから、この婆が鍛えてやってるんじゃないか! 感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはないよ」
再びギラリと怒りの目で睨みつけウェネーフィカ様はウォルンタースさんに向けて魔力の玉を投げつけた。魔力を見れないウォルンタースさんはそれをまともに浴びて吹き飛ばされる。
「因みにそのスライムは服だけ溶かすからね、早く抜け出さないと偉いことになるよ!」
「なぁっ!?」
素っ頓狂な声をあげるウォルンタースさん。先程までの緩慢な動きではなく、必死にスライムを引き剥がして行く。頑張れウォルンタースさん、誰もスライム攻めで服を溶かされる巨躯の中年男など見たくはないぞ。
「クカカカ、まああの馬鹿は放っておいてこちらにおいで、えーとお嬢ちゃん名前をこの婆に教えてくれるかい?」
「あ、僕は棗、清川棗と言います。棗が名前で清川が名字ですウェネーフィカ様」
「クカカ、そんなに可愛らしい顔をしているのに僕なんて言うのかい? 変わった子だね」
そう言って嬉しそうに笑う。ん、顔?
「ウェネーフィカ様、僕は今仮面をしてるのに顔が見えるんですか?」
「そりゃそうさ、婆はもう目がほとんど見えないからね、魔力を直接見ているのさ。お前さんはとても可愛らしい顔をしているね。仮面なんかしてたらもったいないじゃないか。それと”様”は止めておくれよ、そんなガラじゃないのさ。……それなのにこの城の連中ときたらどいつもこいつも、本当に私はウンザリしてるのさ」
ふむ、ウェネーフィカ様もセシルと同じで、あまり”様”付けとかして欲しく無いのかな、それなら。何て呼ぼうかな?
「……んー、ウェニーお婆ちゃん?」
「はうぁっ!?(何たる孫力!?)」
僕の呼び方を聞いたウェネーフィカ様は胸の辺りを抑えて赤い顔をしたまま白目をむいてしまった。大変だ!?なんかブツブツ「オマゴ ジャ オマゴ ジャ」って言ってる……何だろう、怖い。
「ウ、ウォルンタースさん大変です!!ウェネーフィカ様が……ヒェッ!?」
振り向くとそこには半裸でスライムに翻弄されるウォルンタースさんの姿が。
どうしよう、僕はいつの間にか地獄に迷い込んでいたのか!?
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近況ノートにナツメ君のビジュアルを載せてあります。
一応絵かきなのでイメージを損なうような出来ではないと思いますので、よろしければ御覧ください。要望があればほかキャラも載せていこうかと思います。
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