みんなと違う、私の話。
霧朽
みんなと違う、私の話。
あれ欲しい、それ
みんなが当たり前に持つことのできるソレを私は持つことができなくて、ソレを分けてもらっても、いつも手の中で壊してしまう。
そんな自分が嫌で嫌で仕方がなくて、ソレが持てるように変わった。
そうしたら今度は、夢が分からなくなってしまった。
好きなことをやっていい。好きなものになっていい。
そう言われても自分が何をしたいのか、何になりたいのかなんてちっとも分からない。
結局、私は空っぽのままだった。
変わったと思えても、変わってなんていなかった。
みんな違ってみんな良いなんて言葉があるけれど、私はみんなと同じになりたかった。
*
その日はこの地域では珍しく雪が降った。
けれど慣れない天気にテンションが上がるのは最初だけで、何日も続かれるとうんざりしてしまう。こればっかりは人の
慣れない雪かきにげんなりとしていた大人たちと対象的に、子供たちは楽しそうだったけれど。
雪があんまりにも積もるので、授業が中止になって通学路を生徒全員で雪かきをした日もあったくらいだ。
普段、雪なんて降らないから雪かき用のスコップなんてなくて、寒さに
次の週は一転して、暖かい日が続いた。
降り積もった雪が溶けてびちゃびちゃの通学路を歩いた。
スニーカーなんて
そうして段々と春らしくなってきたある日、アズサの母親が屋根からの落雪に巻き込まれて、
アズサというのは私の幼稚園からの友達で、泣き虫なやつだ。
泣き虫のくせに変に
それは母親が事故にあったときも例外じゃなくて、様子を見に行ったら目からボロボロと大粒の涙を流しながら必死に笑っていた。
それを母親に
だというのに、それから数日経つとキッパリと泣き虫が治っていて、不安そうな顔ばかり浮かべていた弱気な青年から、いつも笑顔を浮かべるような好青年に変わっていた。
不気味さを感じなかったと言えば嘘になるけれど、嬉しそうに笑うアズサを見ているとなかなか言い出せなかった。
もともと顔立ちが整っているのとお人好しとも言える優しさが相まって、アズサはモテるようになった。
アズサが他人に取られるのは正直嫌だけれど、私なんかよりはずっとずっとアズサにとって良い人ばかりなので何も言わない。
そんな資格はとうの昔に壊してしまっていた。
*
アズサに彼女が出来た。大人しめで髪が短い可愛い子。シズクというらしい。
彼女はどんなときでも貼り付いた笑顔の離れないアズサに気付いているのだろうか。
母親の事故があってから、アズサはどんなに辛いことがあっても笑顔でいるようになった。もっと言えば、どんなに辛そうな顔でも、笑っているようになった。
一人、物陰で泣きながら笑っていたときだってあった。
気付いているのだろうか、なんて言い方をしたけれど、毎日一緒に帰っていて気付かないなんてことはないのだ。
だからアズサに貼り付いたあの笑顔を
仮面の剥がれたアズサは、より彼女を好きになるんだろう。
けれど、笑顔の剥がれたアズサを彼女は好きでい続けるのだろうか。
彼女がアズサの上の面だけが好きな人なら。
彼女がアズサの本当の表情に気付いていないような人なら。
彼女がアズサにとって頼れる人でないなら。
私がアズサを奪えるくらい悪い人なら。
そんな、意地の悪いことを考えた。
*
修学旅行の日、よりにもよってアズサとシズクと行き先が被った。
彼女はちゃんとアズサの仮面に気付いていたみたいで、いつの間にかより仲が深まっていた。見ないようと思っても、気になってついつい横目で追ってしまう。
当てつけじゃないことは分かっているけれど、目の前でイチャイチャされると(勝手に私が見ているだけで二人に罪はない)どうにもむしゃくしゃして壊してしまいたくなる。
この気持ちは隠さなきゃって思うけれど、修学旅行中に段々とその気持ちが抑えられなくなってきて、最終日のグループ行動から一人逃げ出してしまった。
逃げ込んだ先は
気を
「これ、一つください」と、笑顔の彫られた仮面を指差す。仮面を着ければ私の
「ほほう、
「そんなとこです。お代、いくらですか?」
「お代は結構でございます。ですが代わりに……、
なんとなくだ。本当になんとなく、アズサが頭をよぎった。
いつも笑顔で悲しい表情を浮かべることのなくなった、私に残った
この仮面にそんなオカルト
けれど、そのときの私はむしゃくしゃしていて、何でも良いからあたれるものが欲しかった。
「今年の春にさ。泣き虫で
「すみませんが、
「答えたら買うからさ、お願い」露天商の言葉を
「でしたら……その少年を知っている、とだけ言っておきましょうか」
私は握りしめていた拳を思いっきり振りかぶった。
買うのは
*
私の名も知らぬ露天商にあたるという、ナイスなアイデアは失敗に終わった。
殴ろうとしたら、いつの間にか店ごと消えていたのだ。
殴れなかったおかげでむしゃくしゃは収まらなかったけれど、トイレに行っていたことにして(おかげで私が便秘に悩んでいることになってしまった。あの露天商マジで覚えておけよ)グループに戻った。
戻ったあとも、何をするにも周りを傷つけていた昔のことを思い出して、むしゃくしゃとした気持ちは
それでも周りに当たらずに済んだのは、どうしようもないくらい昔の自分が嫌いだったからだ。
何をしても周りを傷つけて、私の手元には何も誰も残らなかった。
ただ一人、アズサを除いて。
アズサだけは、そんな私を見捨てないでいてくれた。
私に残ったアズサという唯一すらも傷つけてしまうのが怖くて、少しずつ私は変わっていった。
本当に少しずつで、私がようやくみんなと同じスタートラインに立てたのは高校に入ってからだったけれど。
高校に入って何人かの知人は出来たけれど、友達と呼べるような関係だったのはアズサだけだった。
ただでさえ、アズサが彼女と付き合うようになってから付き合いが減ったのだ。
ここで昔の私に戻ってしまえば、私はアズサさえも失ってしまう。
周りがどうこうとかアズサがどう思うかじゃない。私は私がアズサを傷つけることを許せない。
ああ、むしゃくしゃする。
どうして私はこうなのだろう。
みんな違ってみんな良いなんて言うけれど、私はみんなと同じになりたかった。
みんな違ってみんな良いなんて言うくせに、みんなと違えば
私が私である意味なんてあるのだろうか。
たとえ私が私でなくなったとしても、私は普通になりたい。
それはある種の
生物が持つ本能とはかけ離れた、
あまりにも異常なソレが、私とみんなとの違いだと思っていたのだけれど、移動中のバスに揺られているうちに少し考えが変わった。
何か特別な出来事があったわけじゃない。本当にふと思っただけ。
その思いつきを捨ててしまうのは簡単だったけれど、私にはそれがなんだかとても大事なことのように思えた。
間違って壊してしまわないよう
私達はみんな、過去の自分の上に立っている。
人はだれしも、なりたい自分を夢見て日々変化を願っている。
言い換えれば、みんな今の自分を殺したがっている、
けれど、いざ変化と言う名の自殺をしてみても、自分の全てを殺すことはできない。
そのどうやっても消せない自分を、芯とか自己とかって呼ぶのだろう。
私の場合は、みんなと同じになりたいって夢があった。
けれどどんなに頑張っても、私はみんなのような普通にはなれなかった。
普通に近づくことはできても、普通にはなれなかった。
私は私を殺したくて仕方がないのに、私は私を殺せなかった。
みんな違ってみんな良いだなんて言い訳だ。
本当はみんな同じにみんな同じになりたいに決まってる。
けれど、私達は心なんて
だから、みんなはそれを肯定する。
みんな同じにはなれないから、自分にみんな違ってみんな良いって言い聞かせている。
だってそうじゃないと、人間そのものを否定することになってしまうから。
それが私とみんなとの違い。
自分を肯定できない私と、自分を肯定できるみんな。
こんなに苦しいのなら感情なんてない方が良かったなんて思ってしまう私は、バクと言っていいんじゃないだろうか。もしくはニンゲンモドキ。有名な言葉を借りるのであれば『人間失格』や『欠陥製品』なんかでもいいかもしれない。
そんな私だけれど、みんなと同じところもあったりする。(いかにもモドキらしい)
変わりたいっていう自殺願望もそうだし、生きたいっていう
『こんなに苦しいのなら感情なんてない方が良かった』
こんなに苦しいから死んでしまおうじゃなくて、こんなに苦しいのなら感情なんていらない。
私はこんなに苦しくても、死にたくないのだ。
悲しいことに私はどんなに望んだって、みんなと同じにはなれない。
けれどそうやって生きていくしかないから、私は今日も息をするのだ。
……だって、死ぬのはこわいからね。
みんなと違う、私の話。 霧朽 @mukuti_
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