第30話

そう言った瞬間、詩は僕の前から消えた。



雨に溶け込むように静かに消えた。



これで3回目、彼女が僕の前から消えたのは。



彼女に向かって伸ばしかけた手は重力に従って落ちる。



結局僕の前から居なくなるなら現れないでよ。ただ虚しくなるだけなのに…。



一度君に会ってしまえば後戻りが出来なくなってしまうのに。



僕は君が好きだから、大切だから、君に会いたくなってしまう。もう会わないと決めたのに、君を見てしまったら会いたくなってしまう。



彼女が消える時何かが光った気がしたんだ。光に反射して輝く何か。多分あれは彼女の涙。



泣いてたんだ。雨に紛れて、僕に見つからないように。



自分の痛みほど隠すのは小さい時からの彼女の癖だから、それに気づいたのならやることはきっと一つ。



詩に会いにいくこと。

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