第2話

「どうして、君がここにいるの」



彼女がここにいるはずがないんだ。もうここにはいないのに、僕の目の前に彼女がいる。僕の目の前で歌ってる。あの頃より成長して綺麗になった彼女があのころのように歌を。



僕の問いには笑顔で首を振るだけ。そしてまた雨を見ながら歌を歌う。彼女の声は透き通っていて雨の音とともに溶けていく。



あのころ僕は彼女のことが好きだった。彼女がいたから僕は歌も雨も好きになったのに、その彼女はいなくなった。いなくなって僕は雨も歌も苦手になったんだ。彼女がいないのに歌なんて歌えない。



でも今は彼女が目の前にいる。僕の前にいる。彼女がいるなら僕は歌えるだろうか。彼女ともう一度歌えるだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る