荷物持ち⑱


3日後。

僕達はダンジョンを探索する。

ここは最後の3階だ。

見た目が何か変わったとかそういうのはない。


スクロールの地図で進路を確認。

襲ってきスライムやスケルトンを倒す。

あとたまにトレントか。


そしてスクロールの地図で進路を確認する。

この繰り返しだ。


一見すると問題ないように思える。

実際、探索は順調に進んでいた。


ただ僕達に漂う空気や雰囲気。

それは昨日なんて比べられないほど重く苦しい。


だからといって会話が全くないわけじゃない。

アクスさんとミネハさんも互いに無視はない。


必要最低限ではなく雑談もする。

ただお互いに無関心なのは変わらない。


何故なら話はするが一度も相手の顔も目も見ていない。

あったなぁ。前世でこういうの確か社交辞令だったなあ。


アクスさんがスケルトンを斬って、何か骨に白い杭を刺している。

聖杭。これを打たないとスケルトンは復活するらしい。


始めて知った。それにしても手間だ。

エリクサーナイフだとそんな必要ないんだよなぁ。

念の為に持ってきてはある。使わないだろう。


そうして今日2回目の休憩に入る。

僕達は倒れて割れた石柱を椅子代わりにして談笑していた。

合間に干し肉と水を飲む。


「それにしてもスケルトンってやっぱり浮かばれない人の魂が宿っているんですね」


崩れている姿を思い浮かべ、例の森をしみじみと思い出す。

すると4人は目をぱちくりとさせ、きょとんとした。

ほぼ同じ反応に僕はビクっとした。


「あんた。何を言っているの」

「えっ」

「スケルトンには人の魂なんて宿っていないわ」

「でも人の骨ですよ」

「スケルトンはダンジョンモンスターよ。あれは人骨じゃないわ」

「え、人骨じゃないって」

「あのなぁ。ウォフ。確かにあれは骸骨だ。ダンジョンで死んだ人間の骨を扱うのも実際にいる。だがよく考えろ。このダンジョンで死んだヤツはいない」

「あっ」


そうだ。

このダンジョンはつい最近出来てギルドの管理下だから誰も入っていないはず。

そう考えるとこのダンジョンにスケルトンはおかしい。


「ただし絶対とは言えないな。7番目の姉みたいにルールを破る輩もいる」

「破ったんだべか。だどもその輩が死んだとしても、そんな多くないべ。オラたちスケルトンを何十体も倒しているだ」

「そういえば、そうでした」


例え愚か者が居たとしてもそれが何十人は考え辛い。

アクスさんは思案顔で尋ねた。


「ウォフはダンジョンの魔物が何なのか知っているのか」

「あまり……詳しくは知らないです」

「ダンジョンの魔物はダンジョンで生まれる魔物だ。ダンジョン内にしか存在せず、ダンジョンを徘徊して例外なく探索者を人を襲ってくる」

「……ダンジョン内にしか居ないんですか」

「そうだ。ダンジョン外でスケルトンなんて見た事ないだろ」

「そういわれると」


確かに野外で見たことはない。


「だからウォフ。あれは人骨じゃない。だから気にするな」

「は、はい」


スケルトンはダンジョン内にしか存在しない……じゃあ例の森は?

あの森は……おかしいところは多かった。


だからといってダンジョンだったとでもいうのか。

でもあれは森だ。外だった。


階層なんて入り口なんて無かった。

思案顔の僕の肩に座るミネハさんが言う。


「覚えておきなさい。アンデッドと呼ばれる魔物は全てダンジョンの魔物よ」

「それはアンデッドが居るならそこはダンジョンということですか」

「そうよ。なに。その確認するみたいな言い方」

「いえ、勉強になります」


本当に勉強になった。

例の森はおそらくダンジョンかも知れない。

でも疑問はある。

ダンジョンについて色々知っておいたほうがいいかも知れない。


「……魂か。魂の海」

「なんだ。アクス。16番目の妹みたいなポエムか」

「ああ、いや、魂が宿っているオーパーツの話を思い出したんだ」

「そんなのがあるんべ」

「魂が?」

「伝説のオーパーツだ。第Ⅰ級探索者の誰かが所持していると聞いたことがある」

「ふむ。確かにそんな代物。第Ⅰ級なら持っていても不思議じゃないな」

「第Ⅰ級って言えばアクス。前に会ったことあるって言ってただ」

「ああ、まあ……」

「そうなんですか?」


へえー、世界で27名しか居ない探索者の王に会うとか凄い。

ん? アクスさん? なんで不思議そうな顔を僕にするんだ?


「そうなんですかっておまえ」

「なんです?」

「そ、そうか。いや……すまん。なんでもない」


なんでもないようには見えないが、なんなんだろう。

こうして休憩か終わりと立ち上がった瞬間―――地面が揺れた。

それは微妙な揺れだった。


「なんだ?」

「おや。地震か」

「揺れたべ」

「なによ縁起でもないわね」

「―――え?」


僕は咄嗟に【危機判別】を使って戦慄した。


一面、真っ黒だった。何も見えない。


直後。凄まじい衝撃と振動が全てを襲った。

悲鳴と叫び声がして、衝突音が木霊する。


そこから先は覚えていない。








水の音がした。

滴り落ちる水滴の音。


「……つめたい……」


ゆっくり起き上がる。

冷たかったのは床が薄く水が張ってあったからだ。

起き上がると岩肌の天井がうっすらと輝いている。


「……ここは」


床は石が敷き詰められて、天井は洞窟みたいだ。

そして瓦礫。半円形で幅広い水の張った路。

見覚えが全くない。


「…………」


レリック【危機判別】を発動させる。


「っ!?」


僕は左手でナイフを抜いて【バニッシュ】を右手に現す。

赤い光点が三つ見えた。こっちに近付いてくる。


『しゅる……しゅるしゅる……』

『シュルルゥゥ』

「しゅるるる……シヤアァー』


聞こえる。水音と一緒に……何の音だ。

まるで蛇のような―――敵が姿を見せて、僕はうめいた。


「……リザード……マン」


現れたのは緑色をした人型のトカゲ。

僕を見ると爬虫類独特に蛇目の網膜を萎めた。


爬虫類のこの反応。嫌だな。


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