ウォフ13歳⑧
まるでツイてなかった次の日。
僕は昨日の収穫を売りに来た。
まあまあの値段で売れた。
ついでにナイフの相談をしてみた。
カウンターに寄り掛かってアリファさんはぼやく。
「ナイフね」
「中古の安いのでありますか」
「刃物は中古も安いのもあまりよくないよ。新品がいい」
「それ骨董屋が言いますか」
「確かにね」
アリファさんは苦笑する。
「そうだ。ウォフ。例の指輪の件」
「そういえば、どうなりましたかあれ」
言われるまで忘れていた。
「どうやら依頼品みたいだね。依頼料は約束通り仲介抜いて渡すよ」
そう言って袋を置く。
「これですか」
「そうだよ。受け取りな」
「いくらなんですか」
少しは足しになればいい。
なにせ当分の間ダンジョンに入れない。
骨董屋に来る前、気になったのでダンジョンに行ったら閉鎖されていた。
閉鎖はレリックの結界持ちの結界で封じられることだ。
地震が発生したから薄々分かっていた。
だが実際に閉鎖を見ると、これからの生活に不安と心配で気持ち悪くなった。
ナイフも買わないといけないし、だからせめて少しでも足しになれば。
「127000オーロ」
「はあ!? 12万っ?」
思わず叫ぶ。予想以上だ。
というか探索者の登録料……超えた!?
「依頼主はとても喜んでいたよ。会って直接、礼を言いたいといわれたんだがね」
「あっ、それは、ごめんなさい」
「―――だと思ってアタシが代わりに礼を受け取ったよ」
「ありがとうございますっ」
頭を下げる。
アリファさんはため息を附いた。
「別にいいんだけどね。探索者になったらそうはいかないよ」
「は、はい」
「用心の為にソロっていうのは悪く無いけどね」
「僕の場合は性格的なのもあります……」
「だろうさ」
アリファさんは微苦笑する。
あまり人付き合いが前世から苦手で……それが今の僕にも当て嵌る。
はははっ……三つ子の魂百までだ。
「なんとかしないといけないとは思っています」
「普通は探索者を目指しているなら雇い仔になるんだけどね」
「……ですよね」
僕は暗い顔をする。雇い仔。
探索者あるいはそのパーティーに雇われる小間使いだ。
主な仕事は身の回りの雑用や荷物持ちなどをする。
給料はあるみたいだけど、まあ雀の涙がせいぜいだとか。
ハッキリ言うと、使い勝手のいい奴隷のイメージが強い。
実際そのようなものだろう。
待遇の悪さは探索者ギルドでも問題になっていると耳にしたことがある。
しかし解決に至ってない。
というよりも解決するつもりがないように思える。
その理由はハイドランジア最大のクラン。
『クーンハント』―――この辺境で知らぬ者はいない。
「昔はもっとマシだったんだよ」
「昔と違うんですか」
「昔は騎士の従者や師匠と弟子みたいな扱いだった」
「へえー……」
「ワタシもそういう雇い仔やってたからね」
「そうだったんですか」
子供の頃のアリファさんか。
なんとなく元気だったんだろうなと想像できる。
「まっ、今の雇い仔の扱いは正直どうかと思うよ」
「やっぱりですか……」
「探索者も質が悪くなっているのは感じるさ。原因は分かっているけどね」
「クーンハント……ですか」
アリファさんは肯定するように微苦笑した。
ハイドランジアいや辺境最大のクラン・クーンハント。
そのクランのマスターが第Ⅰ級探索者。
世界で27名しかいない探索者の王のひとり。
だから名が広く知られている。
それと同時に悪い噂や評判が常に絶えないクーンハント。
そのクーンハントが雇い仔を大量に雇っているので改善がされていない。
そういわれている。
僕もそうなんだろうと思う。
「ウォフも気を付けなよ。特にね」
「は、はい」
「ところで、ねえ。ウォフ。これでナイフ買えるね」
アリファさんはニヤっとした。
「あっ、そうですね」
「中古だけど、そこの奥の棚にナイフ並んでいるよ」
「刃物の中古は良くないのでは?」
「あはははっ、まぁ見てみるといい」
「わかりました」
僕は言われた通り奥の棚に向かう。
そこには色々な剣やナイフが所狭しと並んでいた。
木製の埃がちょっと溜まった棚を覗く。
色々な形状と大きさのナイフが鞘付きや剥き出しなど無造作に置いてある。
「これもいいな。これもいい。これと、これもか」
中古でも良い物がある。ひとつずつ手に取った。
値段は……2万や4万や6万……15万……高い。
中古なのにこんなに高いのか。
いやこれは僕基準にすれば高いけど探索者にすればそうでもない。
12万で顔色を変えた僕。
平然としている第Ⅲ級探索者のアリファさん。
これが探索者と何もない子供の僕との違いだろう。
棚に並ぶナイフ。
どれもいいけど、どれも何か僕にとって足りない気がする。
なんだろう。なんなんだろう。
前のナイフより明らかに性能が良いものしかないはずなのに。
どれもこれも僕にとって足りない。
何が足りないのか分からない。
「ん……なにしてる……の」
「ナイフを選んでいるんだけど、なんかこう……しっくり来ない」
「……しっくり……」
「それがなにか分からないんだけど、なんか違うっていうか。足りないというか」
「ん……足りない……」
「うーん……」
ん。いま僕は誰と話しているんだ?
声のする方を振り向くと、驚いた。
桃白髪の美少女がいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます