ウォフ13歳⑦
レリック【危機判別】をすると、石柱の奥は真っ黒だ。
「はっははは……」
だろうなとは思ったがここまであからさまだと笑える。
『ルルルウウゥゥゥ』
「…………」
僕は奥を見据え彼女たちを守るように前へ出て【バニッシュ】を構えた。
何かがゆっくりと現れる。
それは赤い一つ目の白い猿の顔をしていた。
身体も白獅子のように雄々しく尻尾は三つに分かれていた。
分かれた三つの尻尾は長く、鞭のようにしなっている。
尻尾はそれぞれ。燃えている火の尻尾。
雷を纏った尻尾。渦巻く風の尻尾になっていた。
あれらはレリックだ。
レリックが使えるのは人族だけじゃない。
魔物もレリックが使える。
特に銀等級・金等級・宝等級・至宝級の魔物は必ずレリックを複数持っている。
その見た目は、前世だと確か
それに似ている。
『ルルルルウゥゥゥ』
仮に鵺としよう。
鵺は僕を警戒しながら三つの尻尾をゆらゆらと揺らす。
『シャアアアッッ』
「っ!」
いきなりノーモーションで燃えている火の尻尾を打ち据えてきた。
咄嗟に利き手でガードする。
『ギヤアアアアアァァァァァッッッ』
絶叫をあげる鵺。
僕が【バニッシュ】で燃えている尻尾の先端を消失したからだ。
鵺は殺意を込めて睨み、跳び下がった。
雷の尾をしならせて雷撃を放つ。
僕は【バニッシュ】を最大化させて消した。
『!』
鵺は眼を見開く。
咄嗟に【バニッシュ】を振る。
何かが消された。
『!?』
「無駄だ。僕には通用しない」
レリック【バニッシュ】で消せないモノは無い。
『シャアアァァァァッ』
鵺は怒り。風の尾で疾風の刃を放つ。
だが僕は避けて掻き消した。
鵺は警戒して遠巻きにする。
この魔物、厄介だな。そのとき僕の背後で誰かが呻いた。
「ん……んんん……」
マズイ。彼女たちの誰かが起きるかもしれない。
ちんたら戦っている時間が無い。
瞬殺―――の二文字が頭を過った。
それが最善だろう。はあ、仕方ない。
ああ、本当は嫌だ。
これを使うのは心底から、嫌だ。
だがしかし鵺を瞬殺するにはこれを使うしかない。
これしかない。
僕は第四のレリック【■■■■■】を使った。
『ルルルルルウウウウウウウ!?』
鵺は慄く。だがもう終わりだ。
願わくば誰も起きるな。
誰も見てはならない。
誰も知ってはならない。
誰も聞いてはならない。
誰も口にしてはならない。
誰も彼もそれは存在して存在しないのだ。
その紫の瞳で見えた鵺の【危機判別】は白だった。
当然だろう。
鵺を瞬殺した。
「……悔しい……」
鵺の瞬殺は今の僕の実力だと無理だった。
そんな自分が情けなくて落ち込む。
「……そうだ。彼女たちは」
気を取り直した。今は落ち込む暇すらない。
呻き声がしたが彼女たちは起きそうになかった。
起きなくて本当に良かったと安堵する。
次の問題はどうやってここから出ればいいか。
「ダンジョンのたぶん深いところなんだろうなあ」
そんなところから彼女たちを起こさず連れて出る。
無理だ。どう考えても無理だ。
いいや待てよ。待て。そうだ。僕はハッとする。
「……彼女たちなら持っているかもしれない」
頭を深く下げて謝った後、彼女たちの荷物を漁った。
本当に心苦しい。
いくら必要だからっていたたまれない。
ましてや女の子の持ち物を探るなんて……あった。
「あった」
それは小さな石だった。
透明で整形されてなく削り取られたように歪だ。
布が巻いてあり中心が虹色に輝いている。
「レガシー……」
ごくりっと緊張で手が震えた。
今から僕はこれを割る。
帰還石。
割るとダンジョンの1階に転移させる消費型のレガシーだ。
レガシーは誰でも使える。そのチカラが内包されているからだとか。
レガシーだから当然高い。これがいくらするか見当もつかない。
「えいぃっ! ごめんなさいっ!」
僕は思いっきり床に叩きつけた。
ごめんなさい。
石は割れると光を放ち、僕達の姿が掻き消える。
光が消えると見覚えがうっすらある岩肌の天井が見えた。
ここは知っている。1階だ。僕は彼女たちをチラッと見る。
起きていない。ホッとする。
彼女たちを置いて行くのは心苦しいが僕はひとりで出口へ向かった。
もうすっかり夜になっている。
門限が過ぎている。
途中でこれは怒られると思ったが門番は居なかった。
おかしい。
門番は交代制で26時間常駐しているはず。
まさか、なにかあったのか。
「おい。こっちだ。人がいるぞっ」
「生還者か!?」
後ろから声がする。ガウロさんの声。
よかった。
もう大丈夫だ。
僕はこっそりダンジョンを出た。
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