一目嫌い

霧朽

一目嫌い

 私には幼馴染がいる。

 同い年で異性。小中高と一緒。家も近い。

 こう聞くと、さぞ仲が良いんだろうとか、どうせ付き合ってるんでしょ? とか言われるけれど、そんなことはなかったりする。


 というのも、私は彼にずっと避けられ続けているのだ。

 思春期特有の気恥ずかしさとかが生まれるよりもずっと前から。

 何か嫌われるようなことをしたかと記憶を探ってみても、そんなことが出来ないくらいには避けられていたので本当に理由が分からない。


 理由を聞こうにも彼は徹底的に私を避けていて、とてもじゃないが理由なんて聞けそうになかった。

 それでも諦めずに彼の隙をうかがったりとどうにかこうにかしようとしていたんだけど、彼を観察し続けるうちにいつの間にか私は恋をしてしまっていたらしい。

 気付けば彼に話しかけることすら難しくなってしまっていた。


 そんなこんなで早五年。

 ついに耐えきれなくなった私は彼に、なぜ私を避けるのかと思い切って聞いてみた。(そこにたどり着くまでの紆余曲折うよきょくせつはまたの機会に)


 そうしたら、私のことが一目見たときから嫌いなのだと言われた。

 嫌いで嫌いで仕方がなくて、口を開けば悪口しか出てこなくなりそうだったので、そもそもの関わりを断つことにしたらしかった。


 正直、なんで? とはなったけど、一目惚ひとめぼれは許されるのにその逆が許されない道理はないでしょと心底嫌そうな声で言われた。そりゃそうだ。

 嫌いなくせして、私のことを傷つけないようにするのがなんともまあ、彼らしい。(彼は優しい彼のままでいたかったとかもっと別の理由なのかもしれないけど、少しくらいは夢を見たって許されると思うので深くは考えない)


 普段、いつでも誰にでもニコニコしている彼だったけれど、このときばかりは嫌そうな顔をしていた。

 彼の嫌そうな顔なんて初めてみたものだから、ひどく驚いたのを覚えている。


 彼が普段絶対に見せないであろう表情を私にだけは見せてくれたという優越感ゆうえつかん

 たとえ負の感情だとしても、彼が私に無関心なんかじゃなくて、それどころかとても大きな感情を持っていたという事実。


 約五年もの間、避けられ続けていた私にとってそれらは劇薬げきやくのようなもので、それからというもの彼の嫌そうな顔が見たくて、彼に嫌がらせという名のアプローチをするようになった。

 ……まあ、何と言いますか。

 この五年で私の恋心はすっかりねじれてゆがんでこじれてしまったらしかった。


 そうして嫌がらせ(猛アプローチ)を続けていたある日、彼に告白された。

 

 もう一度言おう。告白された。

 想い人に自身の恋心を伝えるあれだ。決して罪の告白などではなく。

 どうやら食わず嫌いみたいなものだったらしい。

 私が彼に関わるようになって、私への嫌悪感がなくなるどころか反転したらしかった。


 断る理由なんてあるはずもなく。

 今では、彼と恋人というものをやらせてもらっている。

 彼の嫌がる顔を見れなくなってしまったのは少し残念だけれど、手を繋いで一緒に帰ったり、お互いの家でゴロゴロしたりと、それ以上の幸福を得ているのだ。文句は言うまい。


 そんなわけで前言撤回ぜんげんてっかい

 私には、同い年で。

 異性で。

 小中高と一緒で。

 家が近い、幼馴染がいる。


 そして、お察しの通り付き合っている。


 羨ましいだろ!!!! はっはー!!

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一目嫌い 霧朽 @mukuti_

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