P.19
この日、補講が終わってもすぐには帰らなかった。
さっさと帰っていくダチに「今日は用があるから」と言って、帰らせた。
そして、俺は駐車場の近くの渡り廊下の柱に寄りかかりながら、美波を待ち伏せた。
ここまで車で来ているらしいから、必ずここへ来るはずだから。
「あれ?咲也くん?」
思った通り、美波はやってきた。
「ちょっと話があるんだけど」
俺がいることに不思議に思って首をかしげている美波に、おちゃらけた感じではなく、少し真面目にそう言った。
「え?」
そんな俺に、美波は戸惑っているようだ。
「美波ちゃん?」
そんな美波と一緒に出てきた男が呼びかける。
「あ、よっくん先帰ってて?」
美波はハッとしたように男に顔を向けると、少し申し訳なさそうにそう言った。
真面目な俺から、何かを察したのだろうか。
だけど、男の方は美波の言葉に少し困った顔をした。
「え、でもどうやって帰るの?」
「バスで帰るから大丈夫」
どうやら一緒の車で来ていたらしい2人。
それになんとも言えない感情が埋めく。
「あ、そう?連絡してくれたら迎え行ってもいいけど」
さらりと、当たり前かのように言う男に、大人との差を見せつけられた気がして、イライラした。
引き止めているのは俺で、ここで「俺が送っていく」と言えればいいのだけれど、中学生の俺が車なんて乗れるはずもなく、バイクさえ乗れない俺は、送るとしたらチャリくらい。
どんなに遠くたって、美波を乗せて行く覚悟はあるけれど、車とじゃ比べ物にならない。
昇降口の横に堂々と置いてある俺の赤チャリは、先輩にもらった少し変形しているもの。
先輩に譲ってもらった時は、かっこいいと思ってそれも、なんだかちっぽけに感じて、かっこ悪くさえ思えた。
これが中学生と大学生との差なのか。
どうしようも出来ない、乗り越えられない壁。
その事実から目を背けたくて、勝手だけど、さっさと‘1人で’帰って欲しいと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます