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この日、補講が終わってもすぐには帰らなかった。


さっさと帰っていくダチに「今日は用があるから」と言って、帰らせた。



そして、俺は駐車場の近くの渡り廊下の柱に寄りかかりながら、美波を待ち伏せた。


ここまで車で来ているらしいから、必ずここへ来るはずだから。



「あれ?咲也くん?」


思った通り、美波はやってきた。



「ちょっと話があるんだけど」


俺がいることに不思議に思って首をかしげている美波に、おちゃらけた感じではなく、少し真面目にそう言った。



「え?」


そんな俺に、美波は戸惑っているようだ。



「美波ちゃん?」


そんな美波と一緒に出てきた男が呼びかける。



「あ、よっくん先帰ってて?」


美波はハッとしたように男に顔を向けると、少し申し訳なさそうにそう言った。


真面目な俺から、何かを察したのだろうか。



だけど、男の方は美波の言葉に少し困った顔をした。



「え、でもどうやって帰るの?」


「バスで帰るから大丈夫」



どうやら一緒の車で来ていたらしい2人。


それになんとも言えない感情が埋めく。



「あ、そう?連絡してくれたら迎え行ってもいいけど」



さらりと、当たり前かのように言う男に、大人との差を見せつけられた気がして、イライラした。



引き止めているのは俺で、ここで「俺が送っていく」と言えればいいのだけれど、中学生の俺が車なんて乗れるはずもなく、バイクさえ乗れない俺は、送るとしたらチャリくらい。


どんなに遠くたって、美波を乗せて行く覚悟はあるけれど、車とじゃ比べ物にならない。



昇降口の横に堂々と置いてある俺の赤チャリは、先輩にもらった少し変形しているもの。


先輩に譲ってもらった時は、かっこいいと思ってそれも、なんだかちっぽけに感じて、かっこ悪くさえ思えた。



これが中学生と大学生との差なのか。


どうしようも出来ない、乗り越えられない壁。


その事実から目を背けたくて、勝手だけど、さっさと‘1人で’帰って欲しいと思った。

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