P.5

担任の授業は頭に入らない。


って、いつものことか。



いつもは飽きて寝ている俺。


まわりのやつらはいつの間にか寝ていた。


でも、なんだか寝る気にはなれなくて、頬杖をついて、ぼんやりと黒板を眺めていた。



不意にフローラルの香りがしたと思ったら、


「大丈夫?どこかわかんないところある?」


あの女子大生が覗き込むように見てきた。



「え?あぁ」


「なんかあったら聞いてね」



とっさのことに気の抜けた返事をした俺に、女子大生はそう言ってふわりと笑った。


ドクンと心臓が大きく打つ。



「あ、」


背を向けて去ろうとしていた女子大生の背中に、思い出したようにそう呟けば、


「ん?」


と言って、軽く首を傾げて振り向いた。



「お前、身長何センチ?」


「『お前』って…まったく『七瀬先生』て呼びなさい」



俺の疑問に、ムッとしてそういう女子大生。


それでも、俺は気にせず続ける。



「ん、で?150㎝くらい?」


「もう、失礼なっ。152.8㎝です!」


「ぷっ、ほとんど一緒じゃんか」



ご丁寧に小数点まで言う彼女に、思わず笑ってしまった。



「違う違う、そんなにちっちゃくないもん」


「ふっ、そーですか。美波センセー?」



ムキになって言う彼女に思わず笑いながら、からかってそう言えば、



「あ、ちゃんと名前覚えててくれたんだねっ」



予想に反して、そう言って嬉しそうに笑った。



「は?あぁ」


「嬉しいなっ。わかんないことあったら『七瀬先生』に聞いてね。あ、勉強のことで、ね」



ついさっきまで怒っていたのに、そう言って嬉しそうに笑って、前の方へと歩いていった‘七瀬センセー’。



その後ろ姿は、小学生に間違えられそうなくらいで、思わずぷッと小さく笑ってしまった。



ホント、ちっちぇーなぁ。

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