私が私を捨てた日

Konny

前編

「なぁんでいないんですかぁ!」

私は部屋に入るなり叫んだ。

「いると思ったからここに来たのにぃ!」

泥酔した私はベッドに倒れ込んだ。ここは私の家ではなくサークルの先輩の家だ。

「そんなこと言っても終電ないし来るならタクシーしかないよ。」

「いいですよ!タクシー代ぐらい私が出しますって…」

私はある方に会いたかったのだ。

その人は三ヶ月ぶりに会う人。

その人は私の大切な友達の一人。

その人は死んでいたかもしれない人。


「今からタクシーで来てくれるって。でも到着は2時半とかになるっぽい。」

別の先輩がどうやら電話してくれたみたいだ。時刻は1時過ぎ。私はぼんやりと薄れゆく意識で応えた。

「わぁりました…1時間だけ寝ます…。」

私はアラームをセットし目を閉じた。


爆音のミュージックとバイブレーションが私を叩き起こした。先輩たちは私が本当に起きるとは思っても見なかったようだ。

「ちょっと行ってきます…。」

千鳥足でドアを開けて段差がある階段を降る。風は心地よいが、いかんせん前日に日本酒とレモンサワーを呑みすぎた私にとっては動くことが苦痛だった。頭は揺れる、視界が回る…。

階段を下り切ると私は自販機で水を買った。一口飲むと気持ち悪さでクレーチングに吐き出してしまった。呼吸が荒い。力が上手く入らない。私は崩れるようにアパートの階段の一番下に腰掛けた。もしもあの方が来なかったら…。そんな考えがずっと巡る。心を落ち着かせるために水を飲むが気持ち悪さと動悸で先ほどよりも多くの物を吐き出してしまった。涙が止まらない。このまま涼しい夜空の下で目を瞑ってしまいたい。


近くで車の停まる音がした。私は目を開き力を振り絞って音の方に向かった。精算処理をするために後部座席にライトがついたタクシー、そしてそこには貴女がいた。貴女は私に気がつくと顔色を少し明るくした。後部座席のドアが開く。

「12,020円です。」

私は財布を開くと紙幣を3枚取り出した。しかし小銭は先ほど水を買った時に使ってしまった。すると貴女が20円を出してくれた。

「久しぶりだね。元気にしてた?」

笑ってタクシーを降りた貴女に私は出来るだけ明るく答えた。

「ずっと会いたかったです。」

「なんでよw じゃあ部屋行こっか」

アパートの階段を上り一番奥の部屋。扉を開けると私はサンダルを脱いでベッドにもたれかかった。

「こいつ、ずっとお前に会いたがってたんだぞ。お前がTwitterに上げた最後の投稿を本気で心配してたんだってよ。」

「あ、そうなの。ごめんね、心配かけて。」

貴女のことを恋愛的に見ていたわけではないが私はなぜか貴女に惹かれていた。こっちを見てほしい。話しかけてほしい。

「結局どこのピンサロで働いてるん?」

「一応中央線沿いってことだけは教えとく。」

電子タバコを吸いながら貴女はサラッと言う。

「あんたさ、彼を筆下ろししてあげたら?」

突然とんでもない発言が飛んできた。私も酔いと眠さで理解が遅れた。

「そうだなぁ。20でどう?」

「いいじゃん!お前金持ってるし!○○で童貞捨てられるなんて羨ましいよ俺は!」

先輩が茶々を入れる。確かに私には学生にしては圧倒的な貯金がある。

「20万…ソープ何回通えます…?」

「お前そんなんで悩むな!男ならパッと20出さんか!」

「そーだよ。あたしが死んだら20使っておけばよかったって後悔しちゃうよ?」

「ちょっと考えさせてください…。近日中に連絡します…。」

だが、私はもうこの時に20万円を貴女に払う覚悟を決めていた。だからこそ翌日にはもう既に貴女に連絡をしていた。だが問題は別にあった。


『全く…金を持ってて、童貞を卒業する絶好のタイミングなのにどうして考えちゃうんだい。僕だったら借金してでも行くけどねぇ』

所謂、スピーカーと呼ばれる先輩に私を茶化した男はリークしやがったのだ。しかも翌日に。

悲劇はそれだけでは留まらず、スピーカーは後輩やOBにまでリークをしたのだ。私はそのことを聞かれる度に精神をすり減らさねばならない生活が3週間ほど続いた。そして耐えて耐えて、遂にセックスをする前日にまで辿り着いた。

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