言えない

第10話

神代くんを初めて知ったのは高校に入学してから半年ほど立った頃だったと思う。



最悪な出会いだった。



放課後に偶々、担任に見つかって用事を無理やり押し付けられ4階の資料室に書類を運ぶ途中、手前の空き教室の前を通り過ぎようとするとカタン、と音がした。




授業でさえもほとんど使用されない4階には、当然自分以外の人影は見当たらなく、少し怖いと思いながらも興味本位で空き教室のドアをすこし開けて中を見る。




「ぁあ…っ!」



「なぁ、全然気持ちよくねえけど」




「だ、って……んっ」




「早くしろよ。俺帰りたいんだけど」




男女の絡み合う姿が目に入ってくる。



いや、正確に言えば横たわった男の上で女が腰を揺らしている光景だった。





驚きのあまり呆然とその光景を眺めていると、気だる気な男はふとこちらに目線を向けた。




バチッと目が合う。




呆然としていたあたしだけど、直ぐに我にかえり隣の資料室に駆け込み資料を半ば投げるように置いて4階から走り去った。




どうしよう…っ



見られた…ヤバイよねこれって。





あたしなんであのとき覗いちゃったんだろう………っ!




痴女じゃん!



あたしの頭の中にはこの状況はヤバイという事しかなく、ひたすら夢であるように祈り続けた。





が、しかし。





現実とは実に残酷なもので、あたしの思い通りには事は進んでくれなかった。

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