僕の色はこの世界に彩りを与える

第1話

この世界は、白い。

誰も個性を出さなくて、人々が個性を出し合うためのキャンバスはまだ白いまま。

――この世界に、彩りを。



無彩病。

なんて悲しい運命だろうね。

幼い頃から、絵が好きだった。

休み時間とかもずっと机にかじりついてさ、必死になって。

それなのに、目が見えなくなる?

色彩を失う?

世界はいつも、残酷だ。



幼い頃から、可愛いものが好きで、絵を描くのが好きだった。

でも、好きになるのは女子だし、心だって男子だ。

でも、小鳥遊たかなし 朱音あかねだなんて可愛らしい名前で、背もあんまり伸びなくて、自分で言うのもなんだが可愛らしい顔つき。

小学校の頃はみんなこれを認めてくれていた。

それが、もう「僕」で、「個性」だと分かってくれていた。



――でもさ、世界は違った。

違う色を排除する。

自分と同じ色の人と近くにいようとする。

違う人と関わるには、それぞれの色を分け合ったりして変わらなきゃいけない。

僕は、いじめを受けた。

こんなもの書いてんの? きっしょw」

「しかも可愛いものが好きとかマジかよww 朱音あかねちゃん?」

今でも、鮮明に覚えている。

目をつぶればあの頃の記憶がそれぞれの色を放って頭の中に立ち込める。

あぁ、僕はこの世界に愛されていないんだな。

そう思った。



死のうだなんて、全く思わなかった。

僕の色がこんなヤツらによって無かったことにされるだなんて、絶対に嫌だった。

だから、必死に勉強して県外の国立の高校に行った。

何でもいいから、過去の思いを断ち切りたかった。



――そんなの、ただの偶像だ。

好かれる奴はどこに行ったって周りの奴らにちやほやされる。

でもさ、その逆を考えたことはある?

好かれないやつは――どこに行ったって、嫌われる。

僕は、そこでも受け入れられなかった。

周りの色にうまくなじめなくて。合わせるのが辛くて。

それを言ってしまえば、この病気はかえって幸運だったのかもしれない。

学校の定期健診で「無彩病」だと診断された。

国内でも発症例があまりない、難病だと言われた。

――寿命が一年を切っていることも、その時分かった。

そこからは、ずっとこの病院で生活を送っている。

もちろん死ぬのは嫌だけど、こんな世界に僕が生きる意味なんてないって考えたら、自然にそれもいいかもしれないなって思い始めてきた。

そんな時だったよね。

君が、僕の世界に彩りを与えたのは――。

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