ジョージが異世界で弱りきっている弱者男性を更生させていくようです〜異世界の男たち危機感持った方がいいって。ジョージ伝説の始まりだって〜

さるたぬき

第1話 ジョージ伝説開幕

 坂本さかもと譲治じょうじは実家暮らしの34歳無職だ。

 仕事もせず自分磨きに勤しんできた。

 14歳の時にコミュ障で自信が持てない引っ込み思案な性格が許せず、そこから一念発起して自分磨きにのめり込むようになる。

 具体的に自分磨きとは筋トレ、ランニング、瞑想、これらを毎日繰り返し、最高に漢になるというものだ。

 20年間1日も欠かさず自分を磨いてきた譲治の肉体はギリシャ彫刻のような輝きを放っていた。


 その日、譲治は35歳の誕生日に向けて、人生初めての72時間瞑想を終えようとしていた。

 20年間頑張ってきたのは最高の漢になって最高の人生を送るためなのだ。

 35歳で譲治は最高の漢になる。そして最高の漢になった譲治は何でも出来ると確信していた。

 年収1億でも、トップアイドルと付き合うでも、MMAで世界一になるでも、どんな無謀だと思えるような夢でも叶えられるまでの漢に成長していた。


 3……2……1……。


 時計のアラームが鳴る、まさにその瞬間。

 目を閉じていた譲治の瞼の裏が光に包まれる。


「なっ、何だ……これは!? ま、眩しい! ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 心地の良い浮遊感に包まれた譲治は絶頂した。

 夢心地のまま譲治は思う。


(これが最高の漢になった者への褒美か……ふふ、悪くない)


 恍惚の表示を浮かべたまましばらくその余韻に浸っていた譲治はゆっくりと瞼を開ける。

 そして目に飛び込んできた光景に絶句する。


 なんと中世ヨーロッパ風の世界が広がっていたのである!

 正座した状態で目を見開き口をあんぐりと開けたままフリーズする譲治。

 通り過ぎていく人々が怪訝な表情で譲治を見ている。


「おおお落ち着けっ……! 最高の漢はこの程度で動揺したりしないって。そうだ、どうせ異世界転移しただけの話でしょ?」


 一瞬で動揺を抑えて、心を切り替える譲治。


「フッ、異世界転移した時のことも全てシュミレーション済みだよ。この程度で動揺するとか片腹痛いって」


 譲治は身体を起こして目についた若い男に声をかけた。そこにはもう20年前他人とコミュニケーションが取れなかった譲治はいなかった。


「イェーイ! おはよう! 元気? ちょっと冒険者ギルドまでの道教え欲しいんだけどいいかな?」


「あっあっあっ……は……はぃぃ……えと、その……こ、この大通りを真っ直ぐ進んでいけば……冒険者ギルドありますぅ……」


「おっ、サンキュー。早速行ってみるわ」


 歩きながら譲治は思案する。


(さっきの男、俯きながらボソボソと小声で喋って、ヒョロガリで、殴ったら一発で骨が折れそうじゃないか。そう、まるで20年前の俺──)


 振り向きながら譲治は1人呟く。


「そのままじゃ駄目だよ……胸を張って歩けるように……自分磨きしなきゃ……危機感を持って……頑張れ」


 そうこうしていると冒険者ギルドに辿り着いた。

 中に入るとピリピリとした空気が漂っていた。

 その空気を作り出してるのが1人の男だということに譲治は気付く。

 机に足を掛けてギルド中央に鎮座するイカついもみあげリーゼントの男と視線を交わす。


「ようおっさん。初めて見る顔だな。何しに来たんだ?」


 その場にいた全員の視線が譲治に向く。

 もみあげリーゼントの周りにいる男女はニヤニヤ薄ら笑いを浮かべて譲治を見ている。


「冒険者登録しに来たんだよ。親がいつまでも脛かじってないで早く就職しろってうるさくてな」


「ぷっ」

「ギャハハハハハハ」

「おいおい嘘だろ……」

「おっさん無職なのかよ!! おいおいそれじゃあ金が巻き上げられねぇじゃねえか!! おい!!」


 もみあげリーゼントの周りにいる全員が一斉に笑い出す。

 もみあげリーゼントが立ち上がり譲治の方へ近づいていき、譲治の肩に腕をかける。


「お前名前は?」


「坂本譲治」


「ジョージか……良い名前じゃねえか。俺様はゲイン。A級冒険者だ。ここじゃ俺がルールだ。ここに入ったからにはお前は俺に5万ゼニー納めなきゃいけない。そういう決まりになってる。だがお前には金がない。違うか?」


「いや、違わないが……」


「だーかーらー今日からお前は俺の奴隷になれ。そのガタイだ。馬としての価値くらいはあんだろ? なあお前ら!?」


「ギャハハ! 違いねぇ!」


「おい聞いてんのかおっさん? 何黙ってんだぶっ」


 ゴッという鈍い打撃音と共にゲインの顔が歪み、鼻から血が噴き出す。

 譲治の裏拳がゲインの顔面に直撃していた。


「グォッ……ガハッ!」


 ゲインがふらつきながら後退りして、吐血する。

 遅れて取り巻き達が反応する。


「……え?」

「何でゲインが血を……?」

「おい、どうしたんだ?」


譲治の裏拳のスピードが早すぎたせいで誰も状況を把握出来ていないようだ。ただ1人、ゲインを除いて。


「このクソカスがああああ!! 調子こいてんじゃねぇぞ!! ボゲェ!!!」


 ゲインが手のひらでボーリング玉くらいの炎の球を作り出す。


「嘘だろ!?」 

「やめろゲイン! そんなもんぶっ放したらこのギルドは木っ端微塵に吹き飛んで、全員死ぬぞ!」


「うるせえ!! エナジーボム!!!」


 必死の説得虚しく、炎の球が放たれる。

 炎の球は一直線に譲治の方へと向かっていく。だが譲治は微動だにしない。

 その場にいる全員が絶叫しながら逃げ惑う中、譲治はバレーのレシーブの体勢をとる。

 そして炎の球をゲインの元へ跳ね返す。


「は? んなっ……ちょ、まっ……」


 ドゴォオオオオオン!


 爆音と共にゲインが炎に包まれてその場で倒れる。

 どうやら当たる直前で炎の球を小さくしたので大事には至らなかったようだ。ギルドは無事。被害者はゲインのみ。


「う、嘘だろ……エナジーボムを跳ね返しやがった……」

「なっ、何者なんだこの男はあああああ!?!??」


 ギルド内が湧き立つ。

 譲治は腕を組んでゲインを見下ろしながら言い放つ。


「その程度の魔法で俺に勝てるわけないじゃん。ていうか魔法に頼ってるようじゃ厳しいって。ちゃんと身体鍛えてんの? 毎日走ってんの? これらのことをやってないんなら……マジで危機感持った方がいいよ」



 ーージョージ伝説が今、始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ジョージが異世界で弱りきっている弱者男性を更生させていくようです〜異世界の男たち危機感持った方がいいって。ジョージ伝説の始まりだって〜 さるたぬき @dododosamurai555

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ