ep.7『猫と告白応援 ②』
——————土曜日
「お待たせ。東雲蘭」
「早かったな」
「家、近いから。佐々木優太は?」
可愛らしい私服で歩いてきた昼猫と会話をしている俺の後ろ。
緊張で震えている優太を指差した。
なんでも、昨日は一睡も出来なかったらしい。コンディションは最悪だ。
「あ、ああああと30分で澤田さんが来ちゃう!」
「落ち着け!告白セリフは考えてきたんだろ!」
「あぁ、勿論だ。昨日の夜から繰り返し練習してるさ……」
「なら、大丈夫だ!絶対に成功するって!」
俺がこう励ましているのも昼前からである。
集合時間より早くに来てくれないかと、ファミレスに呼ばれて来てみれば顔が真っ青な優太がいたのだ。
それから、昼食を食べて今である。
本当に大丈夫かな………体調的にも精神的にも、告白の結果全てが不安である。
いつもの優太なら安心なのだが、今では安心出来ない。
笑顔だけが取り柄なのに。
さらりとひどい事を考えていると、俺の服を昼猫が引っ張った。
クイクイという風で何かを伝えたいらしい。
「そろそろ、来るかも。東雲蘭、隠れないと」
「た、確かに!頑張れよ、優太!」
あの状態の優太を一人にするのは不安だが、仕方ない。
真面目な澤田さんだ。
多分、約束の時間よりも早く来ると思う。
だから、俺たちは遠くの物陰から二人を見守る事にした。
待機して、優太の位置を確認する。
すると、再び、俺の服が引かれた。
まだ話があるのかと、昼猫の方を振り返ると、こちらにサングラスを押し付けてきた。
「はいこれ。東雲蘭のぶん」
「え?あ、サンキュー」
受け取ったのは、星型のサングラス。
昼猫は、ハート型のサングラス。
いや、明らかに怪しいでしょ……というツッコミはやめておこう。
こう言うのは雰囲気も大事だ。
なんか、楽しいしね。
(何やってるんだ?アイツら………)
優太が二人の居場所を確認し、そう思った頃、澤田さんが到着した。
清純の白ワンピースだ。
髪もおろしており、学校とは雰囲気が違う。
「どう思う、昼猫」
「完璧に落としにきてる」
「じゃあ、勝算アリか……」
何やら楽しそうに会話をしながらカフェへと向かう二人を追跡する。
あんなに緊張していた優太だったが、今ではいつも通りに見える。
好きな人といると疲れが吹っ飛ぶなんて聞いた事があるが、本当らしい。
「あ、ここが優太くんの言ってたカフェ?」
「そう!ら…友達に美味しいって教えてもらったんだ」
「オシャレなお店だね。早く入ろ!」
「う、うん!」
優太は貼ってあるチラシを横目にため息をついた。
澤田さんにここで誘おうと思ったが躊躇ってしまったのだ。
「最初のポイントはダメだったか……」
「でも、まだチャンスはある」
それは、注文の時。メニューにデカデカと載っているのだ。
嫌でも目につく。
そこがラストチャンスだろう。
まぁ、パフェに頼らなければラストなどないのだが………告白する雰囲気や流れを作るには必要なのだ。
二人が店に入ってから、数分後。
窓からずっと覗いているワケにもいかないので新谷さん考案のゲームをしていると俺のスマホが鳴った。
確認してみると、優太からだった。
そこには、一言だけ【ヘルプ】とだけ書かれていた。
あらかじめに入力しておいた協力要請の合図だ。
それを昼猫に見せ、二人で店へと入っていく。
ここからは、二人で考えた作戦がある。
作戦その1………注文しようとする客の声が聞こえる、だ。
「あ、イェイ。昼n……じゃない、キャサリン!
か、カップル限定パフェだってヨ!」
「ほんまや。とても、おいしそう、やな」
(いやなんで、外国人と関西人のカップル設定!?)
そんな優太のツッコミも知らずに、演技を続ける二人だったが、その異質さに混乱した優太はそのチャンスを逃してしまった。
「昼猫!作戦その2は!?」
「ない。どうしよう」
席に案内された二人はコソコソと打ち合わせをするが、何も決まらない。
その隙に、優太と澤田さんの方は順調に決まっていってる。
すると、向こうから店員さんが歩いてきた。中々、注文しない俺たちに聞きに来たのかもしれない。
「あの、ご注文は………ってお姉ちゃん!」
「わぁ。
そう話しかけて来たのは昼猫、そっくりの女性。
俺は、ハッとした。
彼女が噂の双子だ、と。
初めてみたが、本当に似ている。
「何してるんですか?ヘンテコなサングラスして………」
「あの優太を手伝ってる。告白させる」
「いや、本当にどういうことですか!?」
そう言うと、チラッと俺の方を見た。
まさか、このカフェでカップルを偽ったことバレてないよね??
しかし、流石双子。
顔だけでなく仕草とかも少し似てる気がする。
「あ、初めまして。昼猫と同じクラスの東雲蘭です」
「貴方が東雲さんですね。いつもお姉ちゃんから話を聞いています」
昼猫が、家で俺の話をしてくれているのは、嬉しい。
しかし、どんな内容なのだろうか。
「凄い利用しやすい野郎だぜ……」とかだったら、どうしよう。
すると、向こうから咳払いが聞こえた。
見てみると、優太がコチラを見ながら必死に何かを訴えている。
あぁ、そうだった。
俺たちは優太を助けに来たんだった。
予想外の出会いにすっかり、忘れていた。
「夜猫。ちょっと手伝って」
「無理ですよ………バイト中ですし」
「大丈夫。バイトの仕事すれば良い。
あと、ミルクティーとカフェオレをお願い」
昼猫は、そう言うと夜猫さんに耳打ちをした。
何か作戦を伝えたらしい。
すると、軽く「ハァ…」たため息をついた夜猫さんが協力してくれる事になった。
夜猫さんは、くるりと後ろを向いて、優太たちの席へと歩いていく。
「えっと、ご注文は………お決まりですか?」
「あ、じゃあこの苺パフェを………」
「お二人のようなお似合いカップルには、こちらのパフェをオススメしてしますよ。学生に優しい価格に、お得な特大サイズ。どうですか??」
「—————!?
じゃ、じゃあ、それで!!」
優太は心猫さんの誘導に気が付いたらしく、覚悟を決めて注文した。
澤田さんは、口元に手を運び、顔を赤くしている。
なるほど、店員側からのオススメか!
流石、恋愛上級者の新谷さんだ!
それに、夜猫さんも凄い誘導力!
これが、双子の力か!
などと、感動していると二人の告白はどんどんと進んでいく。
「で、でも……私たち、まだ付き合ってないし………」
「澤田さん。オレと付き合ってくれ!パフェの為じゃない。好きなんだ!」
「優太くん!!」
すると、店内で拍手が起こった。
数人だったが、人に見られている事に気が付いた二人は恥ずかしそうに席に座った。
顔が真っ赤である。
「なんか、成功したみたいですよ。良かったですね」
「ありがと。夜猫」
「はいこれ、ミルクティーとカフェオレです。
飲んだら帰ってくださいよ。なんか、恥ずかしいですし……」
そうして、俺たちは注文していたミルクティーとカフェオレだけ飲み干して店を出た。
しかし、あのカフェで妹さんが働いていたとはね。
びっくりだ。
「あ、メロンパン食べたいかも」
「いいね。食べて帰ろ」
二人で公園のベンチに座りながらメロンパンを食べ始めた。
確かに美味しい………外はカリカリで中がフワフワだ。
おまけにホイップまで入っている。
しばらく、無言の時間が続いた。
そして、俺は独り言のように呟いた。
「恋って難しいね」
「うん。私にはサッパリ」
この日、二人は自分がまだ無知である事を思い知った。
そして、蘭は帰りに「0から始める恋愛」という本を買って勉強し始めた。
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