第5話
節分とは一年間健康に過ごせますように、という願いを込めて悪いものを追い出す行事。
季節の変わり目にくる病気や災害を鬼に見立てそれを追い出す儀式。
豆をまく対象がなぜ鬼なのか、
昔の人は人智を超えた災害や自然現象を鬼のせいと考えていて鬼の存在が現代よりも近かったことから鬼に例えてるとのこと。
色でそれぞれ意味合いも違うだとか。
赤は貪欲、青は怒りや憎しみ、緑は不健康など。
鬼に何故豆をまくのか。
豆には邪気を払う力があると言われていたり、
魔の目に豆をぶつけることで魔を滅するという語呂合わせから。
というのが私の知ってる節分の知識である。
しかしこの世界では鬼は豆を普通に食べていた。
それが先日の記憶だった。だが私はどうやら鬼を侮っていた。
納豆も豆腐も醤油や味噌さえ手作りで作るほど豆を愛食していたのだ。
鬼曰く人間達が投げてきてしんどいけど勿体ないよね〜との事だった。
脳天気な生き物かもしれないと思っていたが、鬼の認識から大きく外れるレベルだった。
この森には小鬼しかおらず畑や狩りなどして食べて暮らしたり、
融通が効く人間を仲介して街に物を売ったりとしてるらしい。
フニは狩り、クリは服飾で街に売っていて、クラは畑を作っていた。
二月の世界というだけあって外は寒いのにどう畑を作るというのだと思ったら、
立派なビニールハウスが建っていた。
狩りに関してはこの世界は永遠に二月を繰り返す世界だから動物は冬眠しないとの事だった。
この世界に来てからヨーロッパのメルヘンな雰囲気が続くと思っていたが、
ここは日本の田舎のような雰囲気でとにかく落ち着いた。
そしてなんと言っても井戸の水が甘くも何も無い普通に美味しい水であるのが一番嬉しかった。
大人の鬼は一月の世界と二月の世界の狭間にある山で登山の観光業をしているのだとか。
登山以外にも人力車ならぬ鬼力車があったり小鬼には任せられない仕事が多く、
ここの小鬼達も大きくなったらそちらの山に移り住まなきゃいけないのだと言っていた。
ここで思ったことがある。
商売の仲介をしたり観光客として山に来たり、人間と仲が悪いと思っていたが意外と共存できているのではないかと。
それを家で服飾をしているクリに聞いたら
「節分が来ると鬼に豆を投げないといけないんだよ。
そうしないとでかい災害が起きるの。だから仕方なく豆を投げるの。
本当は人間も虐めたくないんだと思うんだ。
だから仕方ないことだって思いながら街に住んでたんだけど、
ある時その関係に疲れちゃって。
鬼でもやっぱり嫌われるのはしんどいから。だからみんなで森に住むようになったんだよ。」
ここの世界にとっては一ヶ月の月始めに豆を投げられて虐められる行事ということだ。
現実の世界なら月始めにクラスのいじめの標的にされるみたいな感じなのかな。
そこに悪意はなくて仕方の無いことだとしても学校に行くの躊躇うかもしれない。
否、不登校の出来上がりである。
しかし家にまで押しかけ虐めてくるという図なのだろう。あまりにも酷な話だ。
「私に何か出来ないかな。」
世話になってるだけでなくフニ、クリ、クラ意外の小鬼達も親切に接してくれて私は何も出来ないのがもどかしくて悲しかった。
だけどクリは
「気持ちだけで大丈夫!レンはアメジストの魔女を探すのが先でしょ?」
と笑った。
実を言うと足の擦り傷や靴擦れ等の痛みはもうとっくに無く完治しているが、
小鬼達がどうしても気になって外に出れずにいたのだ。
何とか誤魔化しここに留まっていた。
が、この日の晩クリとクラが寝た頃フニが
で、お前はいつ出ていくんだ?と呆れたように聞いてきた。
「ごめん…。迷惑だよね。」
「いや迷惑じゃないが…。
クリもクラもお前に懐いてるしな。
でもお前が足治るまでの間って話なのにここにいつまでもいたらおかしいだろ。
元の世界に帰りたくないとか?」
「そんなことは無いんだけど、どうしても人間と鬼の問題が気になって。
みんなにはお世話になったから余計に。」
というと変に首突っ込むなよーとおでこを指で弾いた。
「これでも街に住んでた頃より関係は良くなってんだ。
きっといつかお互いにとって良い着地点が見つかるさ。」
思わずいつかっていつ?と子供のわがままのようなことを言ってしまいそうになるが、
そんなの鬼側が強く思っているだろう。
納得いってない顔をしているだろう私の顔を見て
「どうしてもなんかしたいなら王国にでも行って口添えでもしてくれ」
多分それすらも無駄な事だと分かっているのだろう。
どこか悲しそうに笑うフニの顔を見て
「…私、明日この家を出るよ。すごくお世話になったから私絶対成功させる。」
「は?成功って…」
「絶対に何とかしてみせる。恩を仇で返したくないから。」
言い逃げのようにおやすみ!とベッドに入り込み、フニが色々言ってたが聞こえないふりして目を閉じた。
あまりにも普段の私ではしない思考や行動に自分自身驚いたが、
この時ファンタジー小説の主人公の気持ちが少しだけ分かったような気がした。
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