第3話

胸いっぱいに息を吸うと濃い緑の匂いがした。


小鬼が住み着いてる森と聞いて森に入った時は震えながら前に進んだのだが、

しばらく歩いても小鬼に会うどころか危険なことは何一つなく拍子抜けした。


出来れば早くこの森を出て安堵したい。

早く国へ行き、ちゃんとした水と食料が欲しい。私の手元にはレモンキャンディーしかないのだ。


しかし地図上の森は検問所から橋までの距離の三倍もの広さほどあり絶望した。


足の疲労も限界になり木を背もたれに座り込む。

足の裏がじんじんと痛む。ふくらはぎは今にも攣りそうだ。

ファンタジー小説の異世界はもっと楽しそうでチートでめちゃくちゃ楽そうなのに

なんで私はこんなにもハードモードなのだと思わず心の中で悪態を垂れる。

そんな中空気も読まず自分のお腹からぐぅ、と間抜けな音も鳴り顔を顰めた。

もう嫌だ、家に帰りたい。これは悪い夢なのだと思いたい。

一度ネガティブな感情を零してしまったら気持ちが落ちていくのは簡単だった。

気持ちがいっぱいいっぱいになって目に涙が滲み縮こまる。

どうしようもなくて涙しか出てこない。

特別な力も何も無い、所詮私はただの中学生だった。


その時一気に鳥が飛び立つ音や鳴き声、木々がざわめき身体がびくりと震えた。

急になんだと顔を上げようとして上げられなかった。

私の目の前に赤い皮膚の足が立っていたからだ。

足の太さは小学生くらいだろうか。


「…具合悪いの?」


今小鬼はなんと言ったのだろうか。

聞き間違いじゃなかったら具合が悪いかと聞いてきた気がする。

今から襲う対象の体調を気にしたりするのだろうか。


「それとも怪我してるの?」



今度は怪我の有無を聞いてきた。

どういう事だ、怪我があるからなんだというのだ。

今から怪我させるのはそちらだというのに。いや怪我で終われば万々歳ではあるが。


かという私は走って逃げる元気もなければネガティブな気持ちに飲み込まれているため、煮るなり焼くなり好きにしてくれと寝た振りをしようと目を閉じた。


「…寝てる?」


恐らく顔をのぞき込まれてるのだろう。

寝息のように呼吸をし、目を閉じたまま耳に意識を集中させた。


「お兄ちゃん、この子寝てるよ。」



と目の前の小鬼が言った途端にどこからか複数の足音が聞こえた。

その瞬間恐らく私はおんぶされたのだろう。突然の温みに戸惑いつつ、どこに連れていかれるのか怖くて仕方なかった。

だが今起きてしまうのはもっと怖い。


そんな意識とは真反対に疲れきった体に小鬼の体温がじんわりと伝わり私は本当に眠りに誘われてしまった。

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