二月の旅
飴水
プロローグ
はぁ、と息を吐くと白く吐き出される。鼻がじんわりと痛み、マフラーに顔を埋めながら重い扉を開けた。
私は所謂本の虫というものだ。
普段は学校の図書室に入り浸り、在学中にこの図書室の本を全部読破するという大それた夢を掲げているのだが、二月に入りどこか浮き足立った妙な空気が図書室にも流れ込みどうも落ち着かず今日は町の図書館へ足を運んだのだ。
きっとあの妙な空気は来週のバレンタインデーのせいだろう。バレンタインデーを過ぎるまでは町の図書館にお世話になりそうだと短く溜息をつき本棚へと向かった。
前回読んだ本が歯の浮くような言葉が多用されたラブロマンスだったから当分ラブストーリーはお腹いっぱいだと本棚を通り過ぎる。
私の学校にはエッセイ本は無いのでエッセイを読むのは有りだなとぼんやり思いながらファンタジーの本棚を流し見、とある本が目に入りぴたりと動きを止めた。
二月の旅
ラベンダーピンクの無地の表紙に金箔の文字。
まるで新品とでもいうような綺麗な表紙だが、中の紙は色あせてるようだった。
その本を手に取ると何故だかこれは読まなければならない、そう思わざるを得なかった。
席に着き、いざ読むぞと思ったところで少し違和感がした。
人が居ないのだ。
図書館に着いた時には勉強をする学生や読書する老人などまばらながらに人は居た。
が、今はどうだろう。読書する人はおろか司書の人さえ居ないのだ。まるでこの図書館に私一人しかいないように静かだった。
気の所為だろうか、と少し気味悪さを感じつつ本を開くと私は意識を失った。
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