@manten-happiness

感情のない世界で

204X年、世界は感情のデジタル化という新たな時代を迎えていた。人々は、脳に埋め込まれたチップを通じて、感情を自在にコントロールできるようになった。怒り、悲しみ、喜びといった感情は、まるでスマホのアプリのように、自由にインストール、アップデートが可能だった。


主人公の零(レイ)は、そんな感情制御社会に生きる一人の人間だった。ある日、突如として彼の感情がすべてリセットされ、「感情ゼロ」の状態にされてしまう。最初は戸惑いながらも、感情の波に振り回されることなく、平穏な日々を送ることができた。しかし、時間が経つにつれ、心の奥底に空洞を感じ始めた。


「本当にこれでいいのか?」


零は、感情のない世界に疑問を持ち始める。満天の星を見上げても、美しいと感じない。美味しい食事をしても、幸福を感じない。彼は、まるで感情のロボットになってしまったような気がした。


ある日、零はひょんなことから、感情のデジタル化に反対する秘密組織の存在を知る。彼らは、感情をコントロールすることの危険性を訴え、人間本来の感情を取り戻そうと活動していた。零は、彼らに接触し、自分の境遇を打ち明ける。


組織のリーダーは、零にこう言った。「感情をコントロールすることは、人間を機械に変えるようなものだ。喜びも悲しみも、怒りも嫉妬も、すべてが人間を人間たらしめる。感情こそが、私たちを生きていると感じさせてくれるものなんだ。」


リーダーの言葉に、零は深く共感した。彼は、自分の中に眠っている感情を呼び覚ますために、組織の協力のもと、危険な計画を実行に移すことを決意する。


組織のメンバーと共に、零は感情制御システムの中枢へと潜入する。そこには、世界中の感情データが蓄積されていた。零は、このシステムをハッキングし、自分の感情を書き換える。


激しい頭痛に襲われながらも、零はシステムを操作し続ける。そして、ついに、彼の心に感情が蘇った。最初に感じたのは、かすかな光のような希望だった。その後、様々な感情が彼の心を駆け巡る。喜び、悲しみ、怒り、そして愛。


感情を取り戻した零は、満天の星を見上げ、心の底から感動した。それは、かつて感じたことのない、深くて美しい感情だった。彼は、この感情を大切に守りながら、新しい自分として生きていくことを決意する。

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