第22話 悪役令嬢にざまぁされたくない令嬢の婚約者は、守りたい①


 カミレは何かを隠している。多分、それはざまぁ・・・とかいうやつだ。

 それを言いたがらないし、いくら聞いても言わないことなんか分かりきっているから、オレは聞かなかった。

 

 カミレのすべてを知りたい。独占したい。誰にも会わせたくない。誰にも見せたくない。

 

 きっとカミレはオレのそんな気持ちを見透かしている。時々、引いているのが分かる。

 引いてはいるけど、否定はしない。批判もしない。ただ、オレの世界の狭さを、案じてくれている。その優しさが心地良いし、心配されるのは嬉しい。

 だけど、オレの世界は今のままで良い。カミレとカミレ以外。カミレが大切なものは、オレも大事にする。カミレを害するものは排除する。何とも単純な話だ。


 これから排除するために動き出すだろう。そのための準備に、カガチのところへやって来たのだ。

 本当はデートだけを楽しみたかったけど、カミレの許可さえ出れば、いつでも動けるようにしておきたい。

 また今度、ドレスを着てもらってデートをしよう。それから、下町のデートも……。これから先の未来、オレとカミレが離れることなんか絶対にないのだから、チャンスはいくらでもある。



「何が欲しい?」


 奥へと通されたいつもの部屋で、カガチは愛想の欠片もなく言う。本当に両極端な奴だ。カミレの脳内の情報処理が間に合っていないのが、目に見えて分かる。

 可愛い。平静を装うとしている姿が、こんなにも愛くるしい。


 ちらりとカガチを見れば、まったく表情は変わっていない。


 カガチの好みは気の強い歳上の女性だから、大丈夫だと思う。けど、万が一、カミレに惚れたら、カミレのことを忘れるレベルで頭部に衝撃を加えよう。物理で消去させればいい。

 

「早く言え」

「はいはい。カガチはせっかちだなぁ」

「接客して欲しいなら、切り替える」

「そのままでいいよ。欲しいのは、事前に話していた通り、オレたちの変装道具をいくつか。パッと見、本人だって分からないようにして欲しいんだぁ。あ、眼鏡は確定でお願いしたいなぁ」

 

 オレの言葉を聞いて、カミレは「眼鏡……」と感嘆のため息を溢し、カガチは一つ頷いた。


「待ってろ」


 カガチは部屋から出ていった。

 その途端、隣から強い視線を感じる。説明して……と、じっとカミレがオレを見てくる。オレの言葉を聞いて、一つ頷くと、カガチは何も言わずに部屋から出ていった。


「ここには、変装道具を買いに来たんだぁ。この建物の二階から五階はすべて、お店の倉庫なんだよぉ。今、カガチはオレたちの変装道具を探しに行ってて、十分くらいで戻って来ると思うよ」

「そう……なんだ?」


 そうだよね。そうなるよね。


「何が分からないのぉ?」

「このお店って、なんのお店?」

「貴族向けの服屋だよぉ。表向きにはねぇ」


 表向きという言葉に、カミレは少しだけ難しい顔をする。聞けばいいのに、他に何をしているのか、考えているのだろう。


「潜入の手伝いとか、騎士団に協力しているお店?」

「それもたまにしてるよぉ。それ以外にも、貴族のお忍びとかの手助けもしてるかなぁ。とは言っても、紹介がないと奥の部屋には入れないし、紹介された人が問題を起こせば、紹介した人も利用できなくなるから、あまり知られてはないけどね」

「そうなんだ……。って、私を連れてきて良かったの?」

「カミレ、悪いことするのぉ?」


 悪いことをするカミレが想像つかず、笑ってしまう。


「するかもしれないでしょ」

「ううん。カミレにはできないよ」


 というか、オレがそんなことさせない。優しいカミレを、そこまで追い詰めさせるわけない。


「できるよ」

「そうかなぁ……」


 納得いかないという表情をしているが、そんなところも可愛い。

 早く結婚してしまいたい。婚約なんて繋がりじゃ足りない。もっともっと、確実な鎖が欲しい。カミレが逃げられない強力な鎖が……。


「目、怖いよ?」

「そう?」


 危ない、危ない。いくらカミレが受け入れてくれるからって、あまり前面に出さないようにしないと。

 怖がってても可愛いけど、怖がられたいわけじゃないからね。


「あ、そうそう。カガチ、オレたちの先輩だからねぇ」

「先輩?」

「うん。学園の二年生だよ」

「……え?」


 よしよし。話が違う方に行ったね。

 単純だけど、そこがまた、可愛いんだよなぁ。でも、心配でもあるんだよね。

 カミレは、自分は騙されていないと思いながら、全力で騙されるタイプだ。大丈夫だよ。騙されてなんかないよ! って、騙されながら言う。絶対に言う。

 しっかり見張っておかないと。


「学園だと、最初に会った感じかなぁ。オレたちが親しいってバレない方が都合がいいから、学園で話すことはほとんどないけどねぇ。知り合い程度だと皆は思ってると思うよ。そもそも、社交界で会うから、爵位が近ければ、顔見知りじゃない相手の方が珍しいけど」


 今日だって、ちゃんと監視を撒いてからここに来たしね。オレがこの店を利用しているのはバレていないはず。

 それにしても……、馬鹿に従う奴は、馬鹿なのかな? あんなに簡単に撒けるんだもん。笑っちゃうよねぇ。


「そう……なんだ。カガチさんの家の爵位って?」

「伯爵家だよ。伯爵家の中でも勢いがあるんだよねぇ。カガチは三男だから跡は継がないけど、優秀だよ。本人が望めば城勤めもできるだろうけど、やらないだろうなぁ。この店を継ぎたいみたいだし」


 カガチ、じいちゃんっ子だし、この仕事好きだもんなぁ。じいちゃんも、カガチに継いで欲しいように見えるし。ここの仕事の半分は既にカガチがしているから、継ぐので間違いはないと思う。

 卒業と同時に、店主交代もあり得そうだ。ま、しばらくは、じいちゃんのサポートも入るだろうけど。

 問題は、カガチの父親かな。貴族が店をやるなんて! って、反対しそうだけど、じいちゃんと母親がどうにかしそうだな。

 爵位を継げないんだから、放っといてやればいいのに。世間体を気にするんだよなぁ。


「もしかしたら、先輩になるかもしれなかったのに、残念だな」

「……ん?」

「あれ? 言ったことあるよね? 私、お城勤めを目指してるんだけど」

「……城に勤めるにしても、騎士団にしてくれるんだよね?」

「えっ!? あの時の、本気だったの? 私、騎士団には勤めるつもりはないよ」


 本気だったの? って、本気に決まっている。むしろ、こっちが本気なのかと聞きたいくらいなんだけど。 

 文官なんて、王子とマリアンの息がかかったヤツがゴロゴロいる。危険しかない。


「文官になるってこと、どういうことだか分かってる?」

「安定した高給取りになれるってことでしょ?」


 嘘でしょ。何でこんなに危機感がないわけ。リスク管理、どこに置いてきたんだよ……。

 

 

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悪役令嬢にざまぁされたくないので、お城勤めの高給取りを目指すはずでした【連載版】 うり北 うりこ @u-Riko

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