七 発射装置
十月十一日、火曜、午前。
「木村佐枝さんに宅配便でーす」
この日も、次々に『カメラ用精密機械部品』『事務機器交換部品』などの商品名の宅配便が届いた。発送元は全て偽名だ。最長は三〇センチメートルほどだ。筒状物やスプリング、チューブ、シリンダー、小型チャンバーなど様々な部品があった。届くたびに組み立てると次第に形を成した。そして、指示どおりにフグを入手し、届けられた三ミリ径の防錆処理ずみ鋼鉄球の弾丸をフグの肝臓に浸した。
十一月一日、火曜、午前。
最後の部品が届き、設計図にあった三種の装置がそれぞれ二丁ずつ完成した。
円筒部六ヶ所に高圧ガスカートリッジ式発射装置が仕込まれたカメラの望遠レンズは、三脚座とりつけ部内部にガスカートリッジが仕込まれている。望遠レンズとカメラ本体を接続するアタッチメントに、シャッターに連動した発射レリーズがある。予備ガスカートリッジとガス供給チューブはカメラの三脚内部に仕込まれている。
ボールペン型とペンライト型ガスカートリッジ式発射装置は胸ポケットに刺しておける代物だ。どちらも本体胴部に小さなボタンがあり、スライドして押すと弾丸を発射する。
いずれも正確な射程距離は三〇メートルだ。今はどの装置にも弾丸は装填されていない。微細な穴があいた三ミリ径の防錆処理された鋼鉄球弾丸二十四発はフグの肝臓が入った密封容器に浸したままだ。
十一月一日、火曜、正午。
下請けの始末屋から送られたスマホに連絡がきた。佐枝はスマホをスピーカーモードにしてソファーテーブルに置き、芳川とともにソファーに座った。
「連絡事項は何だ?」
佐枝の問いに音声変換された声が答える。
「実行日は十一月二日、水曜、午後二時。
場所は首相官邸一階、記者会見室。
与党幹事長、元幹事長、内山総理の順に始末してくれ。
帝都新聞の記者として会見室に入るよう手配した。
本日午後、記者証と腕章がそちらへ届く。それをつけて入場し、標的を始末しろ。
会見室の記者席は始末しやすい場所を確保しろ」
それだけ話すと通話は切れた。
佐枝は芳川の耳元に口を寄せた。
「芳川が下請けの始末屋なら、標的の始末をどうやって確認する?」
芳川も佐枝の耳に口を寄せて囁く。
「現場へ行って始末を確認する・・・。我々も始末する気だ」
「やはりそう思うか。下請けの始末屋は私たちと同じ装置を使うはずだ。
会見室で記者たちのカメラとボールペンとペンライトを確認し、始末屋を始末しよう」
「わかった」
芳川は佐枝を抱きしめた。頬に笑みを浮かべている。
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