　十月十日、月曜、午前。

　テレビニュースは関越道下線寄居パーキングエリアの事件を報じた。警察は、東京外環自動車道内回線幸魂大橋上の事件と同一犯の犯行とみているが手掛かりが無く、捜査は難航していると報じた。

　正午。

　銀行から、依頼額の半額の入金を知らせるメールが届いた。佐枝と芳川は状況を承知していた。

　夕刻。

　佐枝と芳川はいつものようにクラブ・グレースに出勤した。

　午前〇時前。

　勤務を終え、クラブ・グレースを出た。アーケード街弁天通りをマンションへ歩きながら、佐枝は芳川の手を握った。盗聴器と盗撮器は外したが、また留守中にしかけられた可能性がある。監視カメラのハッキングもある。こうして歩きながら話すのが最も安全だ。

「依頼主、下請けの始末屋、標的、依頼主に情報を流した右翼、こいつらをどう思う？」

　長野のクラブ・リンドウに出入りしている右翼は故人鷹野良平の知人だ。亜紀の調べで、第一線を退いて今なお与党長野県支部を牛耳ろうする右翼が情報を漏したと判明した。

　標的は与党の長を退いたのに、派閥や政治や経済にチョッカイを出してマスコミをにぎわせている。失態が多いのに諫める者はいない。失態を追求するマスコミに政治圧力をかけるぞと威圧している。依頼主が標的の口を封じたくなるのも良くわかる。

「下請けの始末屋を除けば、関係者は全員が隠居世代だろう。政財界が無視すれば大物与党議員を排除できるのに、なぜ排除しないのかね？」

　芳川は政界の世代交代を考えている。標的は政界や財界の遺物だ。時代の潮流に乗れぬまま権力を傘にセクハラやパワハラをくりかえしているため、国内だけでなく国外からも批判の的になっている。依頼主も標的と似たようなものだろう。

「あほな腰巾着が多すぎて、依頼主や標的のような者を崇拝しているせいだ」

　こういう輩は自分をわかっていない。下請けを使えば政敵を始末できると思っている。天変地異が起きたら、独りで何もできない事さえわかっていない。

「いっそのこと、まとめて始末すればすっきりする」

　芳川が冗談のように言うと佐枝が笑いながら言う。

「依頼主と下請けの始末屋も、標的に設定する」

　佐枝は自分の気持ちを素直に話した。

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