3.コンビニにて

 煙草と飲み物を買いにコンビニに来た。学生時代に悪ノリで覚えてしまった煙草が、今となっては食事より大切だったりして、我ながら不健康だなと思ったりする。飲み物は気分で選ぶが、最近は味のついている飲み物に飽きてしまって、もっぱら水を選んでいる。硬水・軟水と種類があるし、メーカーごとに微妙に味が違う。ただの透明な液体ですら個性があるとは。今日は軟水の安いやつにしよう。


 昼時でもないこの時間帯にレジ列ができているのも珍しい。先頭は若いOL風な女で、やれAmazonだの、ぴあチケットだの、メルカリだの、電子決済だの、細かい注文が多く新人らしき店員が捌けないのが原因だ。テンパってる店員を見て少し不憫に思った。


 ふと外に目をやると、一人の男が店に向かって歩いてきた。足元がおぼつかないようで、フラフラと頼りない歩みだ。真っ昼間から酒でも飲んでいるんだろうか。


 ゾンビだ。


 人間とは違う異物さ、というか、違和感のようなものがある。あれはきっとゾンビに違いない。


 こんなに人がいる狭い店内で、どうやって逃げよう。シミュレーションだと、ドアを内側から押さえつけ、店内に入って来れないようにするのだが、残念ながらここは自動ドアだ。とすると、手近な棚を引っ張ってくるか倒すかしてバリケードを作るべきか。いや、それだと僕も店内に閉じ込められることになってしまう。食料には困らないが、籠城するには狭すぎる場所だ。他の手段…となると、これはもうZガンで撃退するしかないんじゃないだろうか。


 そこまで思い至って、近づいてくるゾンビから目を離さずに、尻ポケットに入れているZガンに手をかける。発砲するタイミングとしてはドアを開けた瞬間が良さそうだ。ゲーセンで鍛えた早撃ちで仕留めるため、後ろ手にしてそのまま待つ。


 あと10m。



 5m。


 3m。


 2m。


 1m。


 と、ここで役人がかけつけた。自動ドアの感知するかどうかのところで、現実に引き戻された。


 そうだった。現実にはゾンビを取り締まる担当が居るんだった。


 彼らは慣れた動作で素早くゾンビを確保し、連行していった。


 ざわめきを取り戻した店内で、僕はZガンから手を放した。現実はこんなもんか。完璧なはずの脳内シミュレーションは今日も不発に終わった。

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