終焉のヴァルハラ 〜英雄の最期を看取る者〜
@maki15marimo
プロローグ
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とある王国の西の果て、深い森と澄んだ湖が広がる静かな地に、一風変わった平屋がひっそりと佇んでいた。
その名も、「ヴァルハラの家」
そこは、かつて人々を守り、世界を救い、多くの伝説を残した英雄たちが、穏やかな余生よせいを送るための場所。
かつては誰もがその名を知り、称えられた、勇者、剣聖、聖女、聖騎士、賢者たち。しかし今はその輝きと寄る辺を失い、ただ静かに訪れる死を待っていた。
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英雄たちの終焉の地――「ヴァルハラの家」は、かつて異世界からやってきた一人の男によって建てられた。
――その異世界人――彼はかつてこの世界に名を馳せはせ、無数の冒険を成し遂げた英雄だった。領地と山のような褒賞金ほうしょうきんを手に入れたが、贅沢に溺れ、愛人や子どもたち、孤児院や教会への無計画な寄付により、瞬くまたたく間に財を失ってしまう。周囲の者は、そんな彼を身一つで追放し、彼は浮浪者となった。悲しみの中でなんとか彼は冒険者としての再出発したが、やがて老いとともに安住の地を求めるようになる。そんなある日、彼は、ついに手に入れた特殊なスキル――《創造する者》を用いて、余生を過ごすための家を建設した。そしてもう一つ、彼は自らの死期を悟ると、最期の力を振り絞り、《追憶の灯》という特殊なアイテムを作り出した。それは、夢の中で、自分の過去を追体験できる不思議な灯り。その灯りあかりを付け、彼は最後の夢を見る。その夢は、彼がまだ少年だった頃の冒険の道のりだった。そうして彼は、かつての仲間たちと再び巡り会いながら静かに息を引き取ったのである。
異世界人が旅立って数日後。彼の手紙を受け取った、かつての仲間がその家を訪れた。手紙には、
『ついに終の棲家を見つけた。君がこの手紙を読んでいる頃、僕は死んでいるだろう。……面倒くさいやつだと思うかい? すまないが、僕は最低で、面倒な人間なんだ…。面倒ついでに、僕の最期の願いをしてもいいかい? 僕の遺体、家、そしてそこにあるアイテムの処理をお願いしたい。どう扱うかは君に任せるよ』
とあった。かつての仲間はその遺言通り、遺体を埋葬まいそうし、その家を寄る辺のない英雄たちのための場所とした。
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数年後、「ヴァルハラの家」と呼ばれるようになったその家には、数人の老いた英雄と一人の少年が暮らしていた。
その少年の名は『イヴァン』。かつて魔物に殺されそうになった所を勇者に救われ、今では英雄たちの世話係として、この家で暮らしている。彼には一つだけ特別な力があった。それは特殊スキル《紡ぐモノ》――手を握ることで、その相手の記憶や夢を共有できる能力である。
ヴァルハラの家では、穏やかな時が流れていた。だが、そんな日々は永遠には続かない。ひっそりと、だが確実に死が英雄たちに忍び寄ってきた――。
死を悟った英雄たちは、特殊アイテム《追憶の灯》に手を伸ばし、最期の夢を見る。
――英雄たちが夢の中で、自身の過去を振り返る中、イヴァンは彼らの手を握り、スキル《紡ぐモノ》を発動させる。そこで初めて、イヴァンは知るのだ――彼らがどのような思いで英雄となったのか、その背景に隠された苦悩と決断の瞬間を。
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これは、偉大なる英雄たちの「過去」と、少年イヴァンの「未来」を紡ぐ、切なくも温かい物語である。
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